今回は、相続対策として「生命保険信託」を活用する際の留意点を見ていきます。※本連載は、司法書士・河合保弘氏の著書、『種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法』(日本法令)の中から一部を抜粋し、種類株式や民事信託などを活用した具体的な事業承継対策について、様々な実例を用いて解説していきます。

保険金の支給と同時に信託財産にする「生命保険信託」

事業承継の局面において、生命保険の活用は絶対に必要なことです。

 

生命保険契約によって支給される死亡保険金は相続財産から除外される(相続税は、みなし課税される)ことになりますので、相続人が負担すべき相続税の納税資金確保には最適な対策ですし、また遺留分減殺請求の対象財産を減少させる効果もありますから、様々に活用できるのですが、その詳細は他の書籍に譲るとして、ここでは「生命保険信託」という考え方を紹介しておきます。

 

 

これは保険会社から支払われる保険金について、受取人が直接受け取るのではなく、保険金が支給されると同時にそれが信託財産となり、受託者によって受益者となる受取人に分割的に支払うというような信託契約で、例えば受取人が年少者や障がい者であった際などに利用ニーズがあると言われています。

 

前述のように、プラス財産である限り何でも信託財産とすることができますので、当然に生命保険も、その「請求権」という債権を信託財産とすることが可能です。

 

ただ、生命保険には保険契約者、被保険者、保険金受取人そして保険者(保険会社)といった複数の登場人物が絡んでいますので、信託設定に関しても、法務的税務的に十分な注意が必要となります。

 

まず債権信託の内容として、満期保険金と解約返戻金については、その請求権が保険契約者にありますので、これは問題なく債権信託契約の内容とすることができますが、問題は保険契約者とは異なる保険金受取人が権利を持つ死亡保険金をどうするかです。

死亡保険金請求債権を信託財産に追加することも可能

考えられる仕組みとしては、死亡保険金の受取人を最初から受託者としておく方法があり、実際に信託銀行を受託者兼死亡保険金受取代理人とする構造を使った「生命保険信託」という商品も存在しているようですが、これは特別に許可を得た信託銀行だから可能になっていることであり、現行の保険会社の取扱いとしては、保険金受取人を親族以外とすることは難しいということになっていますで、民事信託で全く同じ構造を取ることはできないようです。

 

2010年に改正法が施行された保険法においては、被保険者の同意と保険会社への通知を条件として、死亡保険金受取人を遺言でもって変更できるということになっていますので、当初の受取人を親族としておき、遺言で親族以外の受託者に変更するという方法も考えられますが、これも現行の保険会社の取扱い上では難しいと言われています。

 

そこで考えられるのが、保険金受取人でもある親族を二次受益者とする民事信託契約を締結しておき、委託者兼当初受益者死亡によって受益権が二次受益者に移転した段階で、二次受益者に発生している死亡保険金請求債権を信託財産に追加するという契約を行う方法です。

 

法的構造は非常に複雑なのですが、これは「将来債権追加信託予約契約」となります。

 

例えば、委託者兼当初受益者が信託すべき財産が少なく、将来発生する死亡保険金を必ず信託財産に追加したいと願っている場合などに応用でき、事業承継の局面であれば死亡保険金ばかりでなく死亡退職金を組み入れる方法なども考えられるでしょう。

 

次回に紹介する事案は、保険契約者兼被保険者でもある祖母が、孫たちに暦年贈与や教育資金贈与をする意思で民事信託をしているケースで、自分が認知症になった後も贈与を継続するとともに、信託財産として生前から受託者に信託している金銭の他に、生命保険から発生する金銭を将来的に追加したいと考えている場合に対応したスキームです。

 

 

[図表]保険法

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    本連載は、2015年3月30日刊行の書籍『種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    種類株式&民事信託を活用した 戦略的事業承継の実践と手法

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    河合 保弘

    日本法令

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