中小企業の資金繰りを円滑化する取り組みの一つとして、Tranzax株式会社の「POファイナンス」が注目を集めている。売掛債権として確定する前の“発注書”を電子記録債権化することで、その譲渡を通じて中小企業に資金供給を行う仕組みだ。実証実験の参加企業のひとつである足利銀行に、「POファイナンス」を含むFintechへの取り組み状況を伺う本企画。ご登場いただくのは、同行のダイレクト営業室・室長の鈴木勉氏と、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏だ。第5回目は、フィンテックサービスなどを利用した、足利銀行の「中小企業支援の取り組み」などについて伺った。

「データの活用」を軸とした新たな事業者支援とは?

――すでにお客さんに提供されているフィンテック系のサービスはありますか?

 

鈴木 個人向けには口座開設用のアプリを昨年3月にリリースしており、この10月からは新たに決済機能を取り入れた「あしぎんアプリ」の提供を開始しております。そのほかにも、フィンテック・ベンチャーのマネーツリーさんと提携して「一生通帳」という銀行口座を管理できるサービスや、アイ・ティ・リアライズさんの「CRECO」というクレジットカード管理アプリとも連携させてもらっています。こうしたアプリに関しては今後、お客様のニーズに応じて、順次増やしていく予定です。

 

小倉 個人向けのフィンテックサービスは新たなものが続々と登場していますよね。しかし、なかなか収益が上がるモデルを確立できていないように感じています。

 

足利銀行 営業企画部 上席審議役
鈴木 勉 氏
足利銀行 ダイレクト営業室 室長 鈴木 勉 氏

鈴木 おっしゃる通りです。個人のお客様にフィンテックサービスを通じて金融商品をご紹介し、収益を上げることを目標にしていますが、まだ目立った成果はありません。法人向けも同様です。AIやビッグデータの活用を通じて自動で融資の審査を行う仕組みづくりなどを研究している最中ではありますが、まだ実験の域を出ません。その点で言いますと、POファイナンスが最も実務に即した実現度の高いサービスでしょう。

 

ただし、金融とは直結しませんが、さまざまなデータの活用は早くから進めております。はじめにご紹介した、営業情報のマッチングがその1つ。当行のお客様の情報をデータベース化して、企業の受発注をマッチングさせるサービスです。フィーを頂かない無料のお役立ちサービスですが、現在は足利銀行のみのサービスから、グループの常陽銀行との連携に取り組んでいるところです。

 

また、栃木県に本社を置く税理士集団・TKCグループのモニタリング情報サービスを取り入れて、信頼性の高い決算書や月次試算表等の財務データの収集にも努めています。そのデータを事業者様向けのソリューションサービスにも活用できないかと考えています。具体的には、M&Aの仲介や事業承継の支援、新しい事業分野を開発する第二創業の支援といったところでしょうか。

 

あとは、大手企業を退職された非常に知見の高いOBの方を、起業に紹介するといった取り組みも行っています。実際、このようなソリューションサービスを通じて、業績を伸ばしている事業者様も出てきております。

 

POファイナンスで事業者の決済関連事務が大幅に合理化

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax株式会社代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 POファイナンスで電子記録債権を企業EDI(電子発注)システムと連携させれば、さらにお取引先企業の事業性評価がスムーズになりますね。

 

鈴木 その点には非常に期待しております。決算書からは読み取れない、企業活動の実態が見えてくるでしょうから。企業の受発注に活用されている企業EDIのほかに、資金決済データを授受する金融EDIというインフラもあるのですが、平成30年度からは、情報の互換性に優れた電文方式への移行が進む予定です。

 

将来的に、企業EDIと金融EDIを連携すれば、事業者様の決済関連事務は大幅に合理化されるでしょう。事業者様にとっても、非常にメリットのある取り組みであることは間違いありません。

 

取材・文/田茂井治 撮影/佐山順丸 ※本インタビューは、2017年9月20日に収録したものです。

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