足利銀行が「POファイナンス」の実証実験に参加する理由

中小企業の資金繰りを円滑化する取り組みの一つとして、Tranzax株式会社の「POファイナンス」が注目を集めている。売掛債権として確定する前の“発注書”を電子記録債権化することで、その譲渡を通じて中小企業に資金供給を行う仕組みだ。すでに、中小企業庁の「中小企業等の業種の垣根を越えた企業間の電子データ連携に関する実証プロジェクト」に採用されており、各金融機関の協力のもと実証実験が行われている。そのプロジェクトの参加企業のひとつである足利銀行に、「POファイナンス」を含むFintechへの取り組み状況を伺う本企画。ご登場いただくのは、同行のダイレクト営業室・室長の鈴木勉氏と、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏だ。第1回目は、足利銀行が「POファイナンス」の実証実験に参加したきっかけなどを伺った。

かつては繊維業者向けの手形割引等も盛んに実施

――足利銀行は、発注書の電子記録債権化によって中小企業の資金繰りを円滑にする「POファイナンス」の実証実験に参加されています。なぜこの実験に参加することになったのでしょうか?

 

足利銀行 営業企画部 上席審議役鈴木 勉
足利銀行 ダイレクト営業室 室長
鈴木 勉 氏

鈴木 当初から関心を持っていたというのが一番の理由ですね。当行は栃木県の宇都宮市に本店を置く地方銀行ですが、栃木以外にも群馬、茨城、福島、東京に拠点を置かせてもらっています。中でも、東京進出は地方銀行のなかで最も早かったと言われているのです。

 

なぜなら、もともとは社名のとおり、足利に本店がございまして、その足利は繊維産業が盛んな両毛地区の1つでした。そのため、当行の取引先には繊維業の会社が多く、そのお客さまが日本橋の問屋街まで繊維商品をおさめる商流があった関係から、早い時期に東京に支店を出した歴史があるのです。

 

小倉 ということは、繊維業者向けに手形割引などをやってらしたということですね?

 

鈴木 おっしゃるとおりです。繊維業も製造業ほどではありませんが、繊維素材を卸してから反物や衣類になるまでに時間がかかります。そのため、以前は手形での支払いが一般的でした。その手形の割引は当行の収益の柱の一つだったようです。

 

そのほかにも、着物や反物を担保に融資も行っていました。だから、足利の旧本店やいくつかの支店の敷地には蔵があるのです。担保に取った着物や反物をそこで管理していたので、その蔵がいまだに残っている地域もあります。さすがに老朽化や耐震化対応の問題もありまして、取り壊された蔵のほうが多いですけど。

 

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地銀として早くから「一括ファクタリング」も導入

Tranzax株式会社代表取締役社長小倉隆志氏
Tranzax株式会社代表取締役社長
小倉隆志氏

小倉 今でいうABL(動産・売掛金担保融資)を古くから行っていたわけですね。

 

鈴木 そうなんです。古くから融資の多様化を図ってきたこともあって、当行は平成11年から一括ファクタリングサービスの提供も始めています。地銀のなかでもかなり早いほうで、群馬に拠点のあった家電メーカーさんのファクタリングを他の地方銀行やメガバンクなどと共同で取り扱ったのが始まりでした。

 

ただ、いまだに旧来型のサービスでして……。現在、メガバンクなどが提供している一括ファクタリングは売掛債権が発生したらそれを電子化したうえで譲渡してもらい、中小企業の早期資金化を支援しますが、まだ当行のサービスでは電子記録債権を活用できていません。この電子化を以前から考えていたので、Tranzaxさんが始めるというPOファイナンスに早くから注目していたわけです。

 

POファイナンスならば、売掛債権として認められる前段階(製品・サービスの納品検収時前)の発注書を電子記録債権化することで、債権の存在と帰属を可視化して担保にすることができます。これまでにない画期的な取り組みですので、関心を寄せていました。

 

――既存の融資制度だけではお客さんのニーズに対応できないということですか?

 

鈴木 POファイナンスは今までになかった融資の仕組みですから、むしろ、新たな資金ニーズを掘り起こすことになると考えています。当行は2003年に一時国有化という苦い経験をして、それでも何とか、お客さまをはじめ皆さんのご理解を得て再上場まで漕ぎつけた歴史があります。実は、その過程で相当必死になって営業スタイルを工夫し、融資のほかにもさまざまな収益機会をとらえる方法を模索してきました。

 

ここ数年は事業承継からさまざまな課題の解決を手助けする企業向けソリューションにも力を入れています。M&Aの支援も平成14年からと、地方銀行のなかではかなり早くから行っております。営業情報のマッチングのスキームを行内で構築しており、お取引先の受発注をお繋ぎする取り組みも展開しています。

 

このような取り組みを経て、2016年には常陽銀行と地方銀行としては資金量で3位となる「めぶきフィナンシャルグループ」として経営統合し、両行の間で、これまでの経験を共有し、シナジーを高める取り組みを行っています。

 

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取材・文/田茂井治 撮影/佐山順丸 ※本インタビューは、2017年9月20日に収録したものです。

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連載FinTechへの先進的な企業の取り組み「足利銀行」~POファイナンスの実証実験

足利銀行 ダイレクト営業室 室長

青山学院大学卒業後、足利銀行に入行。営業店勤務を経て、本部にてファームバンキング、ネットバンキングの企画推進を担当し、一括ファクタリングや代金回収サービス、でんさいといった決済サービスの普及に取り組む。近年はFinTechの担当としてスタートアップ企業と幅広く接するとともに、同行のオリジナルアプリの開発を手掛けている。2017年10月より現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介