金融機関サイドから見た「POファイナンス」参入のメリット

中小企業の資金繰りを円滑化する取り組みの一つとして、Tranzax株式会社の「POファイナンス」が注目を集めている。売掛債権として確定する前の“発注書”を電子記録債権化することで、その譲渡を通じて中小企業に資金供給を行う仕組みだ。すでに、中小企業庁の「中小企業等の業種の垣根を越えた企業間の電子データ連携に関する実証プロジェクト」に採用されており、各金融機関の協力のもと実証実験が行われている。そのプロジェクトの参加企業のひとつである足利銀行に、「POファイナンス」を含むFintechへの取り組み状況を伺う本企画。ご登場いただくのは、同行のダイレクト営業室・室長の鈴木勉氏と、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏だ。第2回目は、金融機関サイドから見た「POファイナンス」参入のメリットなどを伺った。

収益を確保しづらくなっている金融業界の事情とは?

――POファイナンスの実証実験に参加された目的は何でしょうか?

 

足利銀行 営業企画部 上席審議役
鈴木 勉 氏
足利銀行 ダイレクト営業室 室長 鈴木 勉 氏

鈴木 目的はお取引先の早期資金化ニーズに対応することで、新たな収益機会を獲得することです。金融業界全体として、マイナス金利の影響で預金や貸出の利回りでは収益を確保しにくくなっています。一方で、監督官庁からはFD(フィデューシャリー・デューティー=顧客本位の業務)を徹底するよう指導を受けています。

 

最近クローズアップされるようになりましたが、総量規制の対象外だった銀行のカードローンも社会問題化しているような状況です。今までにない取り組みをして、融資の対象を広げていかなくては、もはや生き残れないと危機感を持っています。

 

小倉 この低金利の影響で、銀行の大半が減益決算ですよね。しかし、貸出先を増やそうにも、中小企業の7割は赤字法人で、決算書ベースではとても貸し先が確保できません。だから、カードローンで赤字法人の社長が個人で借り入れして、事業資金に回しているケースも多いと聞いてます。

 

鈴木 そうなんです。従来通りの融資の仕組みだったら、貸出先を増やすには限界があるんです。その点、TranzaxさんのPOファイナンスは、検収前の発注書を電子記録債権化して担保に取ることができます。一括ファクタリングよりも早い段階で中小企業の早期資金化ニーズに対応できるようになるうえに、取引先の受発注情報の蓄積によってリスク管理もしやすくなる。

 

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ABLとはまったく異なるPOファイナンスの成り立ち

Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志氏

小倉 POファイナンスでどこまでの情報を詰め込んだものを電子記録債権化するかは、まだ検討中ではありますが、少なくとも企業活動の実態を把握しやすくなるでしょうね。発注内容がわかれば、実際の振り込みとの比較が可能になり、仮に期日が遅れたり、発注額が減額されたりしたら、それがすぐにわかるようになるんですから。

 

発注額がどんどん減っていくようだと、おかしいなと気づく。POファイナンスは発注者の信用情報を蓄積するのに適したものではありますが、製造業などは元請け・下請け・孫請けという多層構造なので、中小企業間の受発注を見ることもできる。

 

資金繰りが苦しくなると、一番最初に経営者がやるのは支払いを先延ばしにすることです。銀行借り入れの返済を遅らせたら大変なことになるので、取引先への支払いスパンを伸ばして当座を凌ぐ。そういうことも、POファイナンスではすぐに明らかになってしまいますね。

 

鈴木 売掛債権として確定する以前の商流そのものを債権化・担保化するからこそ、そういった情報の蓄積も可能になりますね。さらに、特別なノウハウが必要ないという点も私どもにとってはありがたいことです。貸出先を増やすために当行でもABLを取り扱っていますが、担保の対象がさまざまなので評価に係る結構な負担を感じています。

 

栃木は日本酒の酒蔵が多いので、お酒や酒米を担保に融資するケースもあるのですが、そのためには専門家の意見を仰いで資産価値を評価しなくてはなりません。そのほかにもオートバイや牛、野菜を担保に融資したケースがありましたが、扱う資産ごとに専門知識が必要になるのです。その点、POファイナンスはTranzaxさんのほうで発注書を電子記録債権化してくれるので、こちらが資産価値を評価する必要がありません。

 

小倉 金融機関の評価コストはゼロですからね。POファイナンスはよく、ABLと比較されるのですが、その点は大きく異なります。低金利のご時世ですから評価コストがかかるABLでは収益を確保しにくいのではないですか? 

 

そもそも、ABLは動産というモノを担保に取る融資するサービスです。企業のバランスシートに載っているものを担保に取るだけ。極論すれば、不動産を担保に取るのと変わりありません。しかし、POファイナンスはキャッシュフローを担保に取る仕組みです。そもそもの成り立ちからして、ABLとはまったく異なるものなのです。

 

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取材・文/田茂井治 撮影/佐山順丸 ※本インタビューは、2017年9月20日に収録したものです。

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連載FinTechへの先進的な企業の取り組み「足利銀行」~POファイナンスの実証実験

足利銀行 ダイレクト営業室 室長

青山学院大学卒業後、足利銀行に入行。営業店勤務を経て、本部にてファームバンキング、ネットバンキングの企画推進を担当し、一括ファクタリングや代金回収サービス、でんさいといった決済サービスの普及に取り組む。近年はFinTechの担当としてスタートアップ企業と幅広く接するとともに、同行のオリジナルアプリの開発を手掛けている。2017年10月より現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介