中小企業の資金繰りを円滑化する取り組みの一つとして、Tranzax株式会社の「POファイナンス」が注目を集めている。売掛債権として確定する前の“発注書”を電子記録債権化することで、その譲渡を通じて中小企業に資金供給を行う仕組みだ。すでに、中小企業庁の「中小企業等の業種の垣根を越えた企業間の電子データ連携に関する実証プロジェクト」に採用されており、各金融機関の協力のもと実証実験が行われている。そのプロジェクトの参加企業のひとつである足利銀行に、「POファイナンス」を含むFintechへの取り組み状況を伺う本企画。ご登場いただくのは、同行のダイレクト営業室・室長の鈴木勉氏と、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏だ。第3回目は、「POファイナンス」が掘り起こすであろう企業の融資ニーズなどについて伺った。

融資のさらなる「見える化」を促進

――POファイナンスを取り入れることで、足利銀行の業務はどのように変わると考えていますか?

 

足利銀行 営業企画部 上席審議役
鈴木 勉 氏
足利銀行 営業企画部 上席審議役 鈴木 勉 氏

鈴木 先ほども触れたように、お取引先の情報が蓄積されていきますので、融資の実行までのフローがスムーズになるのではと考えています。実は、地方銀行はメガバンクなどよりもお客様との距離が近いので、一部の古いお付き合いのある取引先に対しては納品検収前のサービス・製品を将来債権として担保に取り、融資をさせてもらうことがあります。

 

肌感覚と言いましょうか、信頼関係が築けている取引先だからこそ、そういうことができるわけです。しかし、POファイナンスならば、お付き合いの密度に関係なく、発注書の電子記録債権化によって担保を確保して融資を実行できるようになります。今まで感覚で行ってきた信用取引のような融資が“見える化”されるので、融資のすそ野が大きく広がると考えています。

 

小倉 ある協会で講演を頼まれたときに、「将来債権担保」について質問されたことがあります。つまり、将来債権を担保に取ったときに、取引先が経営破綻したら、本当に担保として押さえられるのかと。将来債権担保というのは、簡単に言ってしまうと、この先1年分の売上を担保に下さいという融資の仕組みです。

 

Tranza株式会社x代表取締役社長
小倉隆志氏
Tranza株式会社x代表取締役社長 小倉隆志氏

POファイナンスと同じくキャッシュフローを担保に取る仕組みではあるんですけど、「1年分の売上」だといくらになるかわからないじゃないですか? さらに売上先から債務者承諾を取るものではありません。

 

だから、将来債権担保融資を利用されている事業者の取引先が倒産して借り入れの返済が困難になったとき、銀行がその取引先の資産を押さえられない可能性が出てくる。

 

だけど、POファイナンスでは債務者の承諾を取って電子記録債権化しているので、そのリスクはありません。発注段階の具体的な金額も決まっている点も、将来担保債権とは異なるんです。

 

鈴木 おっしゃるとおり、実際に将来担保債権で貸し倒れリスクが発生したら、かなり回収は困難でしょうね。

 

実証実験も参加後、早くも問い合わせが・・・

――では、POファイナンスに対する企業側のニーズはどれぐらいあると予想していますか?

 

鈴木 実証実験に参加させて頂いてから、すでに会計システムのベンダーさんなど、数社から直接、当行にお問い合わせを頂いています。システム開発業界も、建設業界などと同じように元請けさんがいて、下請け事業者、孫請け事業者と多くの事業者がおります。システム開発の案件が発生しても、支払いは数か月先ということも少なくありません。

 

資金繰りが大変な事業者さんもいらっしゃるので、「中小企業の資金繰りを円滑化する取り組みですね」という期待の言葉も頂きました。もちろん、私どもで責任をもって営業して利用者を増やすつもりですが、かなり大きなニーズがあると予想しています。

 

取材・文/田茂井治 撮影/佐山順丸 ※本インタビューは、2017年9月20日に収録したものです。

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