本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

素行が悪い長男に、生前贈与で遺産を分割したが…

前回の続きです。

 

(2)贈与税の連帯納付義務をめぐる問題について

次に、贈与税の連帯納付義務について考えてみましょう。贈与は相続の前倒しとして被相続人(親)から推定相続人(子供)に対して行われ、相続を契機として連帯納付義務の問題が顕在化することがあります。そのため、相続をめぐる問題のひとつとして取り上げます。贈与税の連帯納付義務は、相続税の連帯納付義務よりももっとシビアな問題が生じます。

 

贈与税の連帯納付義務の仕組みとその問題点について、具体的な事案を紹介しますので、一緒に考えて下さい(これは、実際の係属中の事件を参考にして贈与税の連帯納付義務に関する部分を抜粋し取り上げたものです)。

 

<事案の概要>

A子さんは不動産業を営む夫であるBさんの後妻でした。Bさんには先妻との間に子供がいました(長男Cさんとします)。Cさんは素行が悪く、Bさんも手を焼いていました。Bさんは広く不動産業を営んでおり、ちょうどバブルの時期などにうまく時流に乗ったようで、相当の資産を形成しました。その資産の総額は10億円です。

 

ところが、Cさんは自分も不動産業を始めたものの、度々、父であるBさんのところに来てお金をせびります。父親であるBさんは困り果てていました。後妻として長年にわたりBさんの事業を支えてきたA子さんのことも心配になります。

 

そこで、ひとつの決心をします。それは、生前贈与として子供であるCさんに相応の財産を渡し、Cさんに遺留分を放棄させ、残った財産をすべて公正証書遺言により後妻であるA子さんに相続させるというものです。

 

これは、Cさんにとっても渡りに船だったようで、Bさん、Cさんとの間で生前贈与についての合意書を交わすことになりました。Bさんは、生前贈与として4億円を2回に分けてCさんに渡すことにしました。その後、Bさんは、残った全財産(当時約6億)をA子さんに相続させる公正証書遺言書を作成しました。これですべて解決したはずでした。

贈与税の連帯納付義務は「贈与者」が負担

[Bさんは今後どうすべきか]

ところが、Cさんは事業がうまくゆかず4億円の贈与を受けたことを適正に申告しない可能性があることがわかりました。今後Bさんはどのように対処したらいいでしょうか。

 

ア 贈与税の連帯納付義務を考える

 

ここで、贈与税の連帯納付義務について説明します。贈与税の連帯納付義務は、後で述べるように受贈者ではなく贈与者に対して贈与財産の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務を負わしている点に特徴があります。そして贈与は遺産の先渡しであると考えて、贈与税の連帯納付義務も相続税法の中(相続税法34条4項)に規定されているのです。

 

ところが、この贈与税の連帯納付義務は、相続税にもまして不合理な規定です。このことについて、もう少し説明します。

 

イ 贈与税の連帯納付義務は贈与者が負担することになっている

 

相続税法の課税体系は遺産を取得したものに取得した額に応じて税を課する方式(これを遺産取得税方式といいます)になっています。そして贈与税についても、同様に財産を取得した受贈者に対して課税する方法となっています。ところが、受贈者が贈与税の支払いをしない場合に備え、相続税法34条4項において、なぜか「贈与者は贈与した財産の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務がある」ことが規定されているのです。

 

ウ 贈与税の連帯納付義務は不合理である

 

しかし、贈与により財産を喪失した贈与者に担税力(税金を負担する能力のこと)を認めることは、おかしなことです。しかも相続税の場合のような相続財産を取得した相続人間の連帯納付と異なり、贈与者と受贈者との間には相互の強い連帯納付を発生させる関係があるとは限らないのです。

 

このように、贈与税の連帯納付義務は、相続税の連帯納付義務以上に不合理な規定です。本件事案の場合にCさんが申告・納付をしないと、Bさんは4億円の範囲で連帯納付義務を負うことになります。

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