今回は、遺産分割協議を解除して「連帯納付義務」を外す方法を見ていきます。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

債務不履行を理由とした遺産分割協議の法定解除は不可

前回の続きです。

 

イ 平成2年9月27日最高裁判決(民集44巻6号995頁)

 

しかし遺産分割協議の変更が一切できないとすると事案によっては困ったことになります。そこで最高裁は相続人全員による合意解除を認めました。


この最高裁判決は、相続人全員で遺産分割協議を合意解除し、やり直しが可能であることを示した判例と言われています。最高裁は、「共同相続人の全員が既に成立している遺産分割協議の全部または一部を合意により解除した上で、改めて遺産分割協議をすることは法律上当然には妨げられるものではない」と判断し、合意解除と再分割協議を認めたのです。


ウ 今後どうすればよいか


このように、最高裁の判例は、相続人全員による遺産分割の合意解除及び再分割協議は認めていますが、一旦成立した遺産分割協議について相続人の1人に債務不履行があったとしても、それを理由に他の相続人は法定解除をすることはできないとしています。

遺産分割協議を解除して、自分の相続分を「無し」に

<長女はどうしたか>


びっくりした長女は、まず税理士さんに相談し、大阪国税局に交渉に行ってもらいました。自分は代償金を1円ももらっていないから、とても連帯納付義務は果たせないと説明します。しかし、大阪国税局の担当者は聞く耳を持たず、そのうち長女のわずかな財産に差し押さえなどを行ってきました。


やむをえず、再度税理士さんに相談したところ、遺産分割協議を解除して自分の相続分を無しにするしか連帯納付義務をまぬかれる方法はないだろうと、長男の債務不履行を理由に遺産分割協議の解除を通告しました。長男も遺産分割協議をやり直し、長女の相続分をなしにすることについては全く異存はありませんでした。そこで、平成22年に再度遺産分割協議を行います。その内容は、「長男がすべての財産を相続する」というものでした。

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