今回は、遺産分割協議を解除した後に、支払った税金を返還してもらうことは可能なのかを見ていきます。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

遺産分割協議の解除で、取得する財産がなくなった長女

(3)国税通則法23条2項3号に基づく更正の請求について

 

遺産分割の再協議の合意が成立したので、取得する財産がなくなった長女は、自分の支払った税金の返還を求めたいと思っています。更正の請求ができるでしょうか。

 

<考え方の指針>

 

①遺産分割協議が一旦成立した場合でも、相続人全員の了解の下で合意解除し、再分割の協議をすることは可能です。

 

② 遺産分割協議が「やむを得ない理由により解消された場合」に、国税通則法23条2項3号によって更正の請求が可能となる場合があります。設例では、更正の請求が問題となりますので、この点について説明します。

 

ア 国税通則法23条2項3号の規定について

 

国税通則法23条2項3号は、「当該国税の法定申告期限後に生じた同項1号・2号に類する政令で定めるやむを得ない理由がある場合には、当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内の期間において更正の請求をすることができる」旨規定しています。

 

そして政令である施行令6条1項2号において、やむを得ない理由として、「申告に係る課税標準等または税額等の計算の基礎となった契約が、解除権の行使によって解除され、もしくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、または取消されたこと」と規定しています。

 

そこで、遺産分割協議を合意解除し、新たに分割協議を行ったことが「やむを得ない事情によって解除され、または取消されたこと」に該当するかどうかが問題となります。

更正請求が可能な「やむを得ない事情」とは何か?

イ 本件ではどう考えるか

 

さて、先の最高裁の判例は、遺産分割協議の解除について、法定解除はできないとしていますが、他方では相続人全員による合意解除は認められるとしています。

 

ということは、今回の合意解除が「やむを得ない事情による場合」には、23条2項3号に基づく更正の請求ができることになります。

 

そもそも、長女は、平成6年に遺産分割協議が成立した時、代償金を1円ももらっていなかったにもかかわらず、代償金を取得したという前提で申告し、自己資金で税金を払いました。そして、代償金の回収が不能となったため、再分割協議で自己の取り分を無しとしたのですから、自己資金で支払った税金分1800万円を返してもらうことができるはずです。

 

つまり、長女の更正の請求は、「やむを得ない理由による合意解除」として通則法23条2項3号に該当するものとして認められるべきだと思います(しかし現実は厳しいことになりました)。

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