今回は、贈与税の連帯納付義務について見ていきます。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

生前贈与を受けた息子が「未払分がある」と主張

前回の続きです。

 

エ さらなる紛争の発生


<事案の概要>

BさんがCさんに現金合計4億円を振り込んでから、6ヵ月ほど経ったころに裁判所から訴状がBさんのところに送られてきました。Cさんは、「まだもらっていない分として2億円がある」と主張してBさんにその支払いを求めてきたのです。Bさんは激しいショックを受け、訴状が裁判所から届いた直後に急死してしまいます。

 

【A子さんはどうしたか】

裁判が係属した後に、当事者が死亡した場合には、その相続人が裁判を受け継ぐことになります。Cさんから父であるBさんに対して起こされた裁判について、A子さんが、Bさんの地位を承継して裁判を引き継ぎました。この場合にはA子さんに対してすべての財産を相続させる旨の遺言があるからです。

ところで、Cさんは未払い分があると主張していることから、Bさんからの4億円の贈与について適正に申告・納付していたとは考えられません。もしそうであるならばA子さんは贈与税の連帯納付義務を負うことになるでしょうか。

もし息子が、贈与税の申告も納税もしていなかったら…

<考え方の指針>

連帯納付義務も相続分に応じて相続人に承継されます。そのため、A子さんが連帯納付義務を承継することになります(国税通則法5条)。しかし、ここで、本件の事案について考えてください。Bさんが死亡した後、後妻であるA子さんと先妻の子供であるCさんとの間に、家族の信頼や絆に基づく連帯納付を生じさせる関係があるでしょうか。そもそも、Bさんは、遺産をめぐる紛争が起きるのを回避するために、生前贈与と引き換えに遺留分の放棄の手続までとらせたのです。Bさんにならともかく、A子さんが連帯納付義務を負うことはおかしいのです。


<A子さんは所轄税務署に相談したが・・・>

A子さんは、夫であるBさんの死を受けて、今後発生する相続税の申告等の問題について税理士さんと協議しました。そして、Cさんは贈与税の申告をせず納税もしていない可能性が高く、その場合には贈与税の連帯納付義務を負うことになるから、税理士さんを通じて所轄税務署に事前相談をすることにしました。


税理士さんは、Bさんの相続税の申告期限の前に所轄の税務署を訪問し、BさんのCさんに対する4億円の生前贈与の合意書や振込書などの資料を提示して、Cさんが4億円の贈与を受けていることを説明し、申告をしているかどうかを確認しました。もし万が一申告していない場合には適正な対処をするようにも申入れをしました。しかし、税務署の担当者は、「他の納税義務者に関することは教えられない」の一本やりで、何の回答も得られませんでした。


これ以上、A子さんはCさんの申告・納付を促す手段が思いつかないまま、 Bさんに関する自分の相続税の申告を終わりました。

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