今回は、相続税法における「物納申請」と「連帯納付義務」の概要を見ていきます。※本連載は、みどり総合法律事務所の所長・弁護士の関戸一考氏、同じく弁護士の関戸京子氏の共著、『新・税金裁判ものがたり』(メディアイランド)の中から一部を抜粋し、具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

連帯納付義務者への「通知」がなされるように

前回の続きです。

 

(ウ)相続税法の改正

 

平成23年、平成24年に相続税法の改正がなされました。その内容は次のとおりです(平成28年4月1日現在の法律で表示)。

 

①物納申請について、相続税法の改正がなされ、原則として3ヵ月以内に判断すべきとされました(42条2項)。そして、3ヵ月以内に税務署長が許可又は却下の判断をしない場合には、物納申請が認められたとみなされることになりました(42条31項、平成18年改正)。

 

②連帯納付義務については、税務署長は主たる納税義務者に対して国税通則法37条に基づいて督促をしなければならないとされています。しかし、そのような督促をしても、主たる納税義務者が支払わない場合に、連帯納付義務者に対して未納税額の内容や納付方法を通知しなければならないとされました。これによって、少なくとも不意に督促処分がなされることはなくなりました(同34条5項ないし7項)。

 

③主たる納税義務者が申告書を提出してから5年を経過する日までに、連帯納付義務者に対し納付通知書による通知をしていなかった場合には、相続税法34条1項に基づく連帯納付義務は発生しないとされました(同34条1項ただし書1号)。

 

つまり、物納申請を行い、5年を越えて放置された場合には、連帯納付義務が発生しない場合があることが明記されたのです。

 

④さらに、担保を提供して延納の許可もしくは納税猶予の適用を受けた場合は、連帯納付義務は発生しないこととされました(同34条1項ただし書2号・3号)。

長期の争訟による「延滞税・加算税」に注意

(エ)まとめ

 

このように、連帯納付義務は一部が改正されましたが、相続人が複数存在し、多額の相続税の支払義務が発生する場合には、自分だけでなく他の相続人がきちんと申告し納税義務を果たしたかどうかまでチェックしておかなければなりません。特に、主たる納税義務者(他の相続人)が物納申請を行い、物納許可がなされていない時などには、他の相続人は自分が申告をしているからといって安心できないのです。

 

また、他の相続人が延納の交渉を行っていたり、あるいは相続税をめぐり争訟にまで発展し、何年もたってもまだ解決していない場合には、要注意です。本税はもとより、延滞税や、場合によって加算税までが連帯納付義務者(他の相続人)に請求される可能性があるからです。

 

連帯納付義務は、改正されたといっても、まだまだ不十分であり、抜本的な解決が望まれます。

新・税金裁判ものがたり

新・税金裁判ものがたり

関戸 一考,関戸 京子

メディアイランド

相続税、贈与税、青色申告、認知症、連帯納付義務…税金裁判の専門家が納税者目線で解きほぐす。 弁護士・税理士・税金裁判に興味のある納税者必読!豊富な具体例を題材に、税金裁判の現状と課題を解説します。

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