今回は、相続税の「申告から納税まで」の具体的な流れを見ていきます。※本連載は、公認会計士・税理士で、経営塾「未来ネット」を主催する、税理士法人みらい・辻中修氏の著書『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版 』(三恵社)の中から一部を抜粋し、相続に関する基礎知識から実際の相続対策、国際税務の概要までやさしく解説していきます。

「申告納税制度」が採用されている相続税

1.相続税の申告

(1)概要

相続税の申告については、申告納税制度が採用されています。相続または遺贈により財産を取得した者及びその被相続人にかかる相続時精算課税適用者は、相続税の課税価格及び税額を計算し、納付税額があるときには、相続開始があったことを知った日の翌日から10ケ月以内に、一定の事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出し、納税しなければなりません。

 

[図表1]申告及び納付期限

 

①申告書の提出義務者

 

相続または遺贈により財産を取得した者及び相続時精算課税適用者のうち、配偶者控除や租税特別措置法の特例を適用しない場合において、納付すべき相続税がある者は、相続税の申告書を税務署長に提出しなければなりません。具体的には、相続税の計算をした場合に納付税額(最低100円)が生じる場合です。

 

イ、提出義務者の判定

申告書の提出義務者を判定する場合、配偶者の税額軽減や租税特別措置法(小規模宅地等の課税価格の特例等)の規定を適用しないで判定します。これらの規定を適用しないで相続税の計算をした場合に納付する税額がある場合には、申告書の提出義務があります。

 

ロ、実際の納付額がゼロの場合の提出義務

配偶者の税額軽減や租税特別措置法(小規模宅地等の課税価格の特例等)を適用することで結果的に、納付税額がゼロになる場合でも相続税の申告書を提出しなければなりません。

 

ハ、配偶者の税額軽減の適用

配偶者の税額軽減の特例を適用するには相続税の申告書(修正申告、期限後申告を含む)に、適用を受ける旨、計算明細書、その他必要書類を添付して、被相続人の住所地を管轄する税務署長に提出する必要があります(相法19の2③)。

 

ニ、租税特別措置法の適用

通常、租税特別措置法の規定を適用する場合、税務申告書の提出に加え、所定の計算明細並びに添付書類の提出、期限内申告が前提とされます。

 

相続税法の特例となる租税特別措置法の規定は次のようなものがあります。

 

(イ)在外財産等についての課税価格の特例(措法69条の二)

(ロ)小規模宅地等の課税価格の特例(措法69条の四)

(ハ)特定計画山林の課税価格の特例(措法69条の五)

(ニ)国等に相続財産を贈与した場合の非課税(措法70条)

 

【事例 相続税の申告義務者】

◇前提条件◇

Aは、次の財産を残して死亡しました。被相続人Aには配偶者B、長男C(30歳)、長女D(25歳)の2人の子供がいます。相続人は法定相続分でもって遺産分割を行いました。また、相続人は障害者に該当しません。

 

<相続税の申告を提出すべきかどうかの判定>

① 課税価格の合計

資産合計6,000万円 + みなし財産(生命保険1,000万円 - 非課税1,000万円) - 負債合計200万円 - 葬式費用200万円 = 5,600万円

 

② 基礎控除額

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数3人 = 4,800万円

 

③ 課税遺産の総額

(課税価格合計5,600万円 - 基礎控除額4,800万円) = 800万円

 

④ 相続税の総額

配偶者B = (800万円 ×  1/2) × 10% = 40万円

長男Cと長女D = (800万円 × 1/2 × 1/2) × 10% = 20万円

相続税の総額 = 40万円 + 20万円 + 20万円 = 80万円

 

⑤ 納付すべき相続税

配偶者B、長男C及び長女Dは、未成年者や障害者でもないことから、配偶者の税額軽減及び小規模宅地等の課税価格の特例を適用しない場合、各人の納付すべき税額の合計は80万円となります。

 

◇結論◇

Aの相続人は、申告期限までに相続税の申告書を提出しなければなりません。

 

<実際に納税するかどうかの判定>

相続財産の中には小規模宅地等の課税価格の特例が適用できる居住用宅地があり、この特例を適用すると土地の評価額は次のようになります。

 

土地の評価額 = 3,000万円 × (1 - 80%) = 600万円

 

課税価格の合計

 

課税価格の合計 = 5,600万円 - 3,000万円 × 80% = 3,200万円

 

◇結論◇

課税価格の合計額は基礎控除額4,800万円より少ないことから、土地の遺産分割がなされ、相続税の申告書(小規模宅地等の課税価格の特例適用のための所定書類を添付)を提出した場合には、相続税を納める必要はありません。

 

申告期限は厳守! 過ぎると加算税、延滞税が発生

②申告書の提出期限

 

相続税の申告書の提出期限は、相続人、受遺者又は法定代理人が相続の開始があったことを知った日の翌日から10ケ月以内です。ただし、相続人や受遺者が納税管理人の届出をしないで、国外に住所または居所を移転する場合には、出国日までが申告期限となります。

 

通常、被相続人が死亡した日の翌日から10ケ月以内が申告期限となりますが、次のように特殊な場合には、申告期限はその事実のあることを知った日の翌日から10ケ月以内となります。

 

イ、失踪宣告に関する審判の確定

ロ、認知または相続人の廃除取消に関する裁判の確定

ハ、相続人となる胎児が生まれた日

 

③申告書の提出先

 

原則として、相続税の申告書は、相続人や受遺者の住所地を所轄する税務署長に提出します。その者が国内に住所等を有しない場合には、納税地を定め、その納税地を所轄する税務署長に提出します。ただし、死亡時に被相続人の住所が国内にある場合には、全ての相続人等は、被相続人の住所地の所轄税務署長に申告書を提出しなければなりません。

 

④遺産が未分割の場合

 

相続税の申告書の提出期限までに、相続人間で遺産分割協議が成立しない場合には、法定相続分に従い取得したものとみなし、相続税の申告書を提出しなければなりません。

 

遺産が未分割であることを理由に、相続税の申告を提出期限までに行わず、遺産分割がなされてから申告書を提出した場合には、期限後申告とされ、加算税や延滞税が課される場合がありますので注意が必要です。

 

⑤その他

イ、共同申告

相続税の申告は、各相続人が単独でも提出できますが、2名以上が共同して提出することができます。共同申告の場合、事務手続(作成作業、必要書類、提出作業)が一度にできます。このため、共同申告が一般的です。

 

ロ、記載事項と添付書類

相続税の申告書に記載すべき事項並びに申告書に添付する書類は、法令で定められております。特に、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の課税価格の特例等を適用する場合には、必要書類の添付が要件とされますので注意が必要です。

 

ハ、相続時精算課税適用者の還付申告

相続の結果、相続時精算課税適用者の既に納付した贈与税額が相続税額を上回る場合には、差額の贈与税相当額に関して還付のための申告書を被相続人の住所地の所轄税務署長に提出することにより、還付してもらうことができます。

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    本連載は、2016年12月9日刊行の書籍『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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