今回は、不動産経営の行き詰まり、税制改正などが原因となる、相続対策の失敗事例を見ていきます。※本連載は、公認会計士・税理士で、経営塾「未来ネット」を主催する、税理士法人みらい・辻中修氏の著書『よくわかる! 相続への対応 改訂増補版 』(三恵社)の中から一部を抜粋し、相続に関する基礎知識から実際の相続対策、国際税務の概要までやさしく解説していきます。

名義預金が否認され、追徴課税が発生・・・

相続対策は、あくまでも一定の想定の下で計画されたものです。しかし、現実は厳しく、想定通りに行かないこともあります。相続対策にあたっては、次のような失敗事例や問題点を参考にして下さい。

 

(1)金融機関からの借入金が返済できない

 

相続対策の一つに、金融機関からの借入金で貸家を建設し、賃貸することで相続税を減らす方法があります。この方法では、借入金は債務として全額控除でき、他方購入した土地や建物は貸家建付地や貸家となり取得金額より低い相続税評価となるため、結果として課税価格(資産から債務等を控除した金額)が少なくなり、相続税額は少なくなります。

 

しかし、現実は厳しく、少子高齢化、人口減少、賃貸住宅の増加等により、空家の増加、家賃相場の下落が生じます。このため、入居者確保も計画通りにいかず、土地や建物の価格も下落した結果、銀行借入金の返済ができず、担保にしていた貸家だけでは足りず、自宅も全て売却する羽目になった事例が数多くあります。

 

これを推進した銀行、不動産業者、建設業者、税理士等は責任を負わず、本人だけが厳しい現実を迎え、一時社会問題にまでなりました。のど元過ぎると手を変え品を変え、同じようなことが繰り返されますので十分注意して下さい。

 

(2)孫名義預金の否認

 

相続対策のため、孫が生まれてから毎年、贈与税の非課税の範囲内で贈与し、孫名義の預金通帳に預金し、その通帳と印鑑は孫が大学を卒業したら渡そうと祖父(被相続人)が保管していました。孫が大学を卒業する前に祖父が亡くなり、その後相続税の調査が行われ、孫への贈与である預金通帳残高が祖父の相続財産と認定され、相続税が追徴課税される事例がよくあります。

 

せっかくの相続対策も水の泡となり、加算税まで負担する結果となった理由は、預金を支配管理しているのが祖父であり、他人名義で預金をしているのとなんら実態が変わらないためです。

 

このような失敗をしないためには、毎年贈与証書を作成し、贈与税の申告をすることです。贈与証書には孫の両親を法定代理人とし、また贈与税の非課税の範囲内でも申告書を提出することで、法的にも経済的実体としても贈与があったことを明らかにしておくことが望まれます。

節税策を封じ込めるために繰り返される法律改正

(3)相続税法の改正

 

どのような国でも、法の不備や抜け穴を探し、節税を図る者がいます。日本でも多くの節税策が横行し、これに対し、課税当局は法律の改正により対処してきました。節税策は法律が改正されるまでは有効ですが、一旦法律改正がなされると、役に立たないばかりか、無駄や問題が発生します。このような相続税対策として、過去に次のような方法がありました。

 

①土地や建物の購入による株式評価額の引下げ

 

これは、相続評価と時価との違いを利用した節税策です。つまり、株式の評価において、資産の評価は相続税評価で行います。他方、預金や借入金はそのままの金額で評価されます。そこで、手持ちの預金や銀行借入金で土地や建物を購入すると、購入した資産の取得価額と相続税評価額との差額分、株式の純資産評価額を引き下げることができます。

 

これに対して国は、株式の評価規定を変更し、3年以内取得の土地や建物の評価は、相続評価でなく取引価額で評価するように改正することで、この節税策に対応しました。

 

②負担付贈与や低額譲渡

 

負担付贈与(筆者著書『よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』第七章を参照)の場合も、上記①と同様、取引時価と相続評価の差額を利用した節税策です。つまり、銀行借入金でもって、土地や建物を購入し、これを子や孫に贈与し、同時に債務である借入金も負担させることで、子や孫の贈与税を節税し、被相続人の保有する土地や建物を相続評価で移転させるものです。

 

これに対し課税当局は、負担付贈与の場合、土地や建物の評価を取引市場価格とすることで、この節税策を封じ込めました。

 

③その他

 

上記以外にも多くの節税策に対し、課税当局は法律や通達の改正で対応しています。納税者と課税当局とのいたちごっこにより、節税策が考え出され、封じ込まれています。

 

あまりにも過激な節税策に関しては、近い将来、法律等の改正があることを前提に行動することが望まれます。

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    本連載は、2016年12月9日刊行の書籍『よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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