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「何歳まで生きるかわからないのだから…」介護費用を息子に求めた父
そんな誠さんに転機が訪れたのは、74歳のときです。
自宅の浴室で転倒し、大腿骨を骨折。手術とリハビリを経て退院することになりましたが、以前のように一人で生活することは難しくなっていました。
病院からは、介護サービスの利用や施設への入居を検討するよう勧められました。誠さん自身も、自宅での生活には不安を感じていたといいます。
ところが、施設の費用を確認すると、誠さんは難色を示します。入居一時金に加え、毎月の利用料、さらにそこに含まれていない費用も加味すると、毎月5万~10万円、貯蓄から取り崩さなければなりません。
「そんなに毎月お金を使っていたら、すぐに貯金がなくなる。何歳まで生きるか、分からんのだぞ」
誠さんは、施設の費用を自分の資産から支払うことに抵抗を示しました。そして大介さんに、入居一時金と毎月の利用料の一部を負担するよう求めたのです。
大介さんは、父親の言葉に納得できませんでした。自分には大学の学費を出さず、奨学金を借りるよう求めた父親が、今度は自分の介護費用を負担してほしいというのです。しかも、父親には6,000万円の金融資産と月19万円の年金収入があります。
「父は、自分が何歳まで生きるかわからないから、お金を残しておきたいと言います。でも、だからといって、なぜ私が負担しなければならないのでしょうか? 私にも家庭があります」
大介さんは、父親に自分の資産と年金から施設費用を支払うよう求めました。
民法第877条では、直系血族や兄弟姉妹に扶養義務があると定められています。ただし、具体的な扶養の程度や方法は、扶養を受ける側の必要性や扶養する側の経済状況などを踏まえて判断されます。親の介護費用を子どもが無条件に全額負担しなければならないわけではありません。
誠さんは、息子の申し出に不満を示しました。
「せっかく貯めた金を減らしたくないんだ。お前だって、いずれ相続することになるだろう」
その言葉を聞き、大介さんは父親との関係を見直すことにしました。
「私が大学に行きたいと言ったとき、父はお金を出してくれなかった。今度は父が施設に入りたいと言っている――どうしても、私は父のためにお金を出したくない」
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、高齢者の57.1%が現在の貯蓄を「足りない」と感じており、実際の平均保有額(1,769万円)と必要だと考える額(2,648万円)の間には約879万円の乖離が存在します。また、61.2%が日常的に預貯金を取り崩して暮らしているのが現状です。十分な資産があっても長寿や介護費用への不安から過度な自衛に走ることは、分からなくもありません。
ただし、子どもたちを頼れるかどうかは、それぞれの家族関係によって異なります。親が介護を必要としたとき、子どもがどこまで経済的に支援できるかも、各家庭の事情次第です。
老後の安心を確保するために貯蓄を続けることは大切なことです。しかし、お金を残すことばかりを優先し、家族との関係を顧みなければ、いざというときに頼れる相手を失ってしまうかもしれません。必要なときに自分のお金を使い、家族に過度な負担をかけずに暮らすこと――老後を考えるうえで忘れてはならない視点です。