(※写真はイメージです/PIXTA)
孫からのプレゼント
「ご近所のお友達に話すと、みんな羨ましがってくれて。井戸端会議のネタができました」
都内の閑静な住宅街で一人暮らすアサさん(79歳)は、目尻を下げてそう微笑みます。アサさんは数年前に夫を亡くし、現在は夫の遺族厚生年金と自身の年金を合わせて月約18万円を受給しながら、穏やかな日々を送っています。
アサさんは若いころに結婚・出産し、一人娘も早くに結婚したため、孫のマオさん(30歳)は今年でちょうど30歳になりました。同世代の友人からは「そんなに大きなお孫さんがいるなんて」「孫とお酒を一緒に飲めるなんて羨ましい」とよくいわれます。
近居する娘夫婦が共働きで忙しかったこともあり、マオさんが幼少期のころはアサさんが日中の面倒をほとんど引き受けていました。アサさんにとってマオさんは目に入れても痛くないほど可愛く、マオさんも大のおばあちゃん子として健やかに育ちました。
アサさんの亡き夫は生前、堅実に貯蓄をするタイプだったため、手元には十分な老後資金が残されていました。「愛する孫の将来のために使いたい」と考えたアサさんは、マオさんの成長に合わせて教育資金の援助を続けてきました。中学・高校時代の塾の夏期講習代や冬期講習代、大学の入学祝いや成人祝いなど、折に触れて渡してきたお金は、累計で500万円ほどに達しています。
マオさんは有名私立大学を卒業後、大手企業に就職。立派な社会人として活躍するようになりました。
そんなある日、マオさんからアサさんに一通の連絡が入ります。
「おばあちゃん、いままでたくさん応援してくれてありがとう。社会人になって仕事も落ち着いてきたから、感謝を込めて温泉旅行をプレゼントしたいんだけど、一緒に行ってくれる?」
内心嬉しくも、「孫に大金を使わせるなんて」と恐縮したアサさんでしたが、マオさんや娘からも説得され、温泉旅行へ連れていってもらうことに。訪れたのは、老舗として知られる有名温泉旅館でした。テレビでも見たことのある旅館に、アサさんはすっかり感激します。趣のある客室でゆったりと温泉に浸かり、彩り豊かな懐石料理に舌鼓を打つひととき。夕食の席では、近ごろはすっかりお酒が弱くなったアサさんでしたが、マオさんとグラスを傾けながら、幼いころの思い出話やいまの仕事のやりがいについて夜遅くまで語り合いました。
「昔、手を引いて散歩していたあの子が、いまや私が段差で転ばないように手を貸してくれる。私のために立派な旅館を予約してくれて、美味しいものをごちそうしてくれたんです。夢のような時間でした。いままで積み重ねてきた援助は、私が好きでやってきたことですが、こうして立派に育った姿を見せてくれ、一緒に過ごす時間を作ってくれたことがなによりの対価だと感じています」
旅行から帰ったいまも、旅先でマオさんと撮った写真をリビングの目立つ場所に飾っているアサさん。
「お金がすべてじゃないですが、応援してきた時間がこんなにも温かい思い出になって返ってくるなんて、本当に幸せなことですね」
感謝の想いを胸に、アサさんは今日も穏やかな笑顔で一日を過ごしています。