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「家には金がない」家族にお金を使わなかった父
「父は昔から、家族にお金を使うことを嫌がる人でした。自分の老後のために貯めているのだと、いつも言っていました」
そう話すのは、都内の精密機器メーカーに勤務する高橋大介さん(45歳・仮名)。地方都市で一人暮らしをする父親の高橋誠さん(74歳・仮名)は、長年、地元の企業で定年まで勤め上げました。派手な買い物をすることもなく、給料の多くを貯蓄に回してきたといいます。
誠さんには、老後に対する強い不安があったといいます。若いころに親族が病気で長期入院し、医療費の負担に苦労した姿を見ていたからではないか、と大介さんは振り返ります。
「年を取ってから金がなくなったら、誰も助けてくれない。働けなくなっても困らないように、今のうちに貯めておく……父の口癖でした」
家族との外食や旅行はほとんどなく、家電製品も壊れるまで使い続けました。特に大介さんが不満を抱いたのは、大学進学のときです。大学に進みたいと伝えると、父親は「大学に行く金はない。勉強したければ奨学金を借りればいい」と返しました。大学の学費を出せないほど収入が少なかったのか――そのようには見えなかったといいます。母親が家計を切り詰めて生活するなかでも、父親は将来への備えを優先していたからです。
結局、大介さんは奨学金を借り、深夜のアルバイトをしながら大学を卒業しました。就職後も返済を続け、卒業から15年近くが経ち、ようやく奨学金の返済から解放されたといいます。
「父には、大学に行くために借金をする必要があるのかと何度も聞かれました。でも、父が学費を出してくれることはありませんでした。自分の老後のためなら、子どもが借金をしても構わないのかと、ずっと疑問でした」
誠さんは定年後も貯蓄を続け、退職金も大部分を残しているといいます。現在の金融資産は6,000万円ほど。年金も月19万円強受給しています。
大介さんは、父親が老後に備えてきたこと自体を否定するつもりはありませんでした。しかし、家族にはほとんどお金を使わず、自分の将来だけを優先してきた父親の姿には、複雑な思いを抱いていました。