老後のために蓄えてきたお金は、自分たちの暮らしを守るためのものです。しかし、子どもが離婚などの事情で生活に困り、孫を連れて頼ってきたら、どこまで支えるべきなのでしょうか。援助が長引けば、老後資金の取り崩しにもつながりかねません。親としての責任と、自分たちの老後を守ること。その両立を考えるうえで、見過ごせない問題があります。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「もう腹をくくるしかない…」〈年金月26万円・貯金2,000万円〉72歳父、42歳長女と8歳孫の帰還で平穏な老後が一変…荷物をまとめる2人に告げた「覚悟のひと言」 ※写真はイメージです/PIXTA

老後資金を守るか、娘と孫の生活を支えるか

茂さんが気になり始めたのは、目先の食費だけではありません。蓮くんが成長すれば、衣服や学用品、習い事などにかかる費用も増えていきます。愛さんが安定した生活を取り戻すまで何年かかるのかもわかりません。

 

2,000万円の貯金があれば、当面の支出には対応できるでしょう。しかし、それは余ったお金ではありません。夫婦のどちらかが病気になったときや、介護が必要になったとき、住まいの修繕が必要になったときにも使う、大切な老後資金です。

 

総務省の「家計調査」によると、2025年の65歳以上の夫婦のみの無職世帯は、可処分所得が月平均約22万2,000円であるのに対し、消費支出は約26万4,000円。税や社会保険料なども含めると、月約4万2,000円の赤字でした。これは平均値であり、佐藤さん夫婦の家計と同じではありません。それでも、年金生活では貯蓄を取り崩す可能性があり、まとまった支出に備える必要があることがわかります。

 

茂さんは、愛さんに「いつまでいるつもりなんだ」と聞くことも考えました。けれど、離婚を決意した娘が、先の見えない状況に不安を抱えていることもわかっていました。追い出すような言い方をすれば、娘をさらに追い詰めるのではないか。何より、蓮くんにとって安心できる居場所を失わせたくありませんでした。

 

気づけば、約束と言っていた3ヵ月はとうに過ぎていました。「これ以上、迷惑はかけられない」と荷造りを始める愛さんと蓮くん。その背中越しに、茂さんは伝えます。

 

「ずっとここにいたらいい」

 

条件として、フルタイムの仕事に就くこと。生活費をきちんと入れること。蓮くんのことは全面的に自分たち夫婦に任せたらいい――。

 

「もう1回、子育てを始める覚悟です。今までのように、平穏な老後とはいかなくなるでしょうね。経済的にも厳しくなるでしょうね。しかし2人をバックアップすることに、老後をささげる覚悟です」

 

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査(2022年)』によると、離別女性が親と同居する割合は父親と同居が22.7%、母親と同居が27.3%にのぼります。

 

さらに、同研究所『第9回世帯動態調査(2024年)』が示すように、過去5年間に離別した女性の30.7%がひとり親世帯へと移行しており、実家への同居や協力が再出発の大きな支えとなっています。一方で、同調査で確認されるように、親から子・孫へ対する「孫の世話」や「生活費・教育費」などの援助が長期間に及べば、高齢親の蓄えを取り崩し、将来の介護や医療に備える老後資金を脅かす要因にもなり得ます。

 

親が支援の決断をする際には、単なる善意に任せるのではなく、同居期間の目安や自活に向けた目標設定、家計分担の取り決めを行うことが不可欠です。