自立したはずの子どもが親の元に戻り、共同生活を始めるというケースは少なくありません。特に親が高齢である場合、金銭面だけでなく精神的な負担が大きくなることもあり、それまでの平穏な生活が崩壊してしまうことも……。本記事では、年金月23万円の80代夫婦の事例をもとに、老後資金を用意する重要性についてCFPの山﨑裕佳子氏が解説します。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「父さん、ただいま…」年金月23万円の80代夫婦が直面した「老後崩壊」の地獄…キッカケは、35年ぶりに帰郷した〈氷河期世代・53歳息子〉【CFPの助言】
53歳息子を養う老後…預金減によるストレスで倒れた82歳父
事情を聞いたマサアキさんは、呆れながらも不憫に思い、アツシさんを受け入れることにしました。
精神的に落ち着けば、就職先を見つけられると思っていましたが、50代という年齢の壁もあり、書類選考すら通過できないなど再就職の現実は厳しいものでした。面接に落ち続けるうちに、アツシさんは自室にこもりがちになり、ダラダラとした生活を続けてしまいます。
アツシさんは再就職をすることもないまま、半年が経過しました。当然、生活費を入れることもできません。おのずと食費や光熱費の負担がマサアキさんたちにのしかかるようになりました。
そしてとうとう、23万円の年金では生活費を賄うことができなくなりました。仕方なく毎月の不足分をマサアキさん夫婦の預金から取り崩しているのです。気がつけば半年で25万円を取り崩していました。
自堕落な生活を続けるアツシさんへの苛立ちや、老後資金の予期せぬ目減りなどの不安がストレスとなっていたのか、ある日の朝、マサアキさんは布団から起き上がることができなくなってしまったのです。
年齢的なこともあり、しばらく入院することになったマサアキさん。老後資金枯渇の恐怖が加速するなかでもアツシさんを突き放すこともできずどうしたらいいのかわからない状況です。
【CFPの助言】年間50万円の赤字も…親の生活・老後資金の確保が最優先
すでに独立したはずの子どもが諸事情により実家に戻り、両親との生活を再スタートさせるマサアキさんのような事例は、珍しいことではありません。
しかし、線引きのないままズルズルと同居を続けてしまうと、夫婦の生活が脅かされる事態にもなりかねません。
夫婦自身の生活と老後資金確保が最優先
マサアキさん夫婦の生活の維持と、老後資金の確保を最優先に考えます。息子が同居するようになったことで、大切な老後資金が目減りしていることは大問題ですが、加えて精神的、身体的な負担が増していることも年齢的なことを考えれば見逃せない問題です。
生活費の不足分を預金で補填し続ければ、年間50万円の預金が減少する計算です。さらに、今後はマサアキさんの医療費や介護費が増えることが予想されるため、預金を取り崩すスピードは加速する可能性が高いでしょう。
生命保険文化センターによると、介護に要した初期費用の平均額は47万円、月の負担額は平均9万円です(公的介護保険サービスの自己負担額を含む)。介護期間平均4年7ヵ月から計算すると、一人あたり平均約500万円の介護費用が必要ということになります。
「親の年金、預金は親自身の生活・医療・介護のための資産である」という原則を親子で再確認しておく必要があります。子側は親の資産額を把握していないことが多いです。
年金や預金額などを子と共有して、無償での生活提供には限界があることを明確に伝える必要があるでしょう。