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老後に備えていた夫婦を襲った、飲食店経営の苦境
神奈川県内で30年近く飲食店を営んできた小林修さん(68歳・仮名)が亡くなり、妻の明美さん(61歳・仮名)は店を閉めることになりました。
長年、常連客に支えられてきた、夫婦で切り盛りしてきた店。修さんが調理を担当し、明美さんが接客や仕入れ、経理を担っていました。大きな利益が出るわけではありませんでしたが、2人で働けば生活費を賄うことはできていました。
老後への備えも、しっかりしていました。国民年金だけでは満額受給でも月7万円程度(令和8年度)。修さんは小規模企業共済に加入し、引退後の生活資金を積み立てていました。明美さんも個人年金保険を契約し、引退後の生活に備えていたのです。
ところが、数年前から経営環境が厳しくなりました。食材費や電気・ガス代が上がり、店を開けるために必要な費用が膨らみました。値上げをすれば客足が遠のく心配もあり、価格を十分に引き上げることができません。売り上げがあっても、仕入れ代や家賃などを支払うと、手元に残るお金はわずかでした。
中小企業庁『2025年版小規模企業白書』によると、原材料費や物価高、人件費の上昇に対する価格転嫁率は約5割にとどまっています。また、円安や物価高の継続に加え、30年ぶりの金利上昇(「金利のある世界」の到来)やコロナ禍のゼロゼロ融資返済負担などが重なり、資金繰りも悪化。中小企業は厳しい状況にさらされています。
小林さん夫婦も生活費を切り詰め、預貯金を運転資金に回すようになりました。それでも資金繰りは厳しく、明美さんは個人年金保険を解約。修さんも民間の生命保険を見直し、ついには小規模企業共済の任意解約に踏み切りました。
小規模企業共済は、個人事業主などが廃業後や退職後の生活資金を準備するための制度です。ただし、任意解約では加入期間などによって受取額が変わり、掛金の合計額を下回る場合もあります。老後に備えて積み立ててきた資金を事業に回すことは、将来の生活資金を減らすことにもつながります。
それでも、店を続けるには資金が必要でした。客足が少しずつ戻り、経営を立て直せる可能性が見え始めた頃、修さんが病気で突然亡くなりました。
夫を失った明美さんは、1人で店を続けることも考えました。しかし、調理から仕入れ、接客までを1人で担うのは難しく、店を閉める決断をしました。夫婦で築いてきた収入源を失ったうえ、老後のために準備していた資金も大きく減っていたのです。