子ども食堂の利用実態を巡り、世間一般の認識と現場の機能には乖離が生じつつあります。設立当初に報じられた「貧困対策」としての側面以外にも、利用目的は存在するようです。事例を見ていきましょう。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
「娘を子ども食堂に通わせています」世帯年収1,000万円・東京在住40代共働き夫婦の事情…夜19時、毎晩家で一人ぼっちの小学生 (※写真はイメージです/PIXTA)

娘を子ども食堂に通わせる理由

「周りからは『なぜ子ども食堂を利用するのか』といわれることもあります」

 

そう語るのは、都内のマンションで暮らす会社員のミサトさん(42歳)。同い年の夫と、小学3年生になる9歳の長女との3人暮らしです。世帯年収は約1,000万円。夫婦ともに一般企業の総合職として勤務しています。

 

そんなミサトさんと夫が悩んでいたのが、「娘の平日の夜の過ごし方」でした。

 

「夫婦ともに繁忙期が重なると、帰宅が私は21時過ぎ、夫は23時近くになることも珍しくありません。娘はピアノ教室に平日の週に1回通っていて、ピアノがある日は帰宅時間が遅くなるので、なるべく仕事終わりの私か夫と夕食をとります。それ以外の日は、私と夫は週替わりの交代制で食事の支度をしているのですが、朝のご飯の用意と一緒に夜ご飯も作っておいて、娘は学童保育から帰宅したあと、お風呂に入って私か夫がまだ帰宅しなさそうなら20時ごろにそれを一人で食べるという毎日でした」

 

ある日、娘がぽつりとこぼした「一人で食べるご飯は、あんまり味がしない」という一言に、ミサトさんは強いショックを受けました。

 

「共働きで目の前の生活に困るような経済状況ではないですが、娘に寂しい思いをさせていたのは確かです。ですが、私も夫も実家が地方で遠方なので、夜、娘が一人にならないようにと気軽に頼むことはできず、たまにお友達のご家族のご厚意でお世話になることもありますが、頻繁にはもちろん頼れず。娘の教育費など今後のお金のことを考えると、仕事をセーブすることも難しいです。ずっと罪悪感に苛まれていました」

 

そんな折、近隣のコミュニティスペースで週2回開催されている「子ども食堂」の存在を知ります。当初、子ども食堂は経済的に困窮している家庭の子どもが行く場所というイメージがあったそうです。「貧困家庭のための場所に、うちのような世帯が足を踏み入れていいのか」と躊躇しました。しかし調べてみると、貧困層のためだけではなく、「誰でも利用可能」「孤食の防止」を掲げていることがわかりました。

 

まずは土曜日の開催日に、親子3人で足を運んでみることに。

 

「手作りの温かい食事が並び、近所のお年寄りや別の子連れ家族が同じテーブルで食べていました。ボランティアスタッフの方々が声を掛けてくださり、娘が楽しそうにご飯を食べる姿を見て、ここなら一人で留守番をさせるよりずっといいと感じました」

 

その後何度かミサトさんが付き添い、娘が慣れたのを見計らってから、徐々に一人で通わせるようにしました。現在、娘は週に2回、学童保育を終えた足で一人で食堂へ向かい、ボランティアスタッフに見守られながら食事や宿題をして過ごしています。ミサトさんや夫は仕事帰りに食堂へ立ち寄って娘を迎えに行くのがルーティンに。

 

「娘が行っている子ども食堂は、子どもは無料で、大人は一食300円です。週2回、夕食作りを休めることも夫婦で助かっています。娘が子ども食堂へ行く日は、私も夫も適当に済ませることができます」

 

平日夜の娘の選択肢が増えたミサトさん。ミサトさんの家の近所の子ども食堂は、毎日開店しているわけではないので、一週間のうち何日かだけでも「暖かい手料理・いろんな人との触れあい・協調性・自主性、そして地域への関心」を子どもながらに持ってもらいたいという思いがあると運営側から話を聞いたそうです。ミサトさんはその趣旨に感銘を受け、気兼ねなく利用できているといいます。

 

「地域の子どもを守ろうと活動してくれているスタッフの方々への感謝として、定期的に寄付もしています。ただ、閉店時間までずっと食堂にいて『まだ帰りたくない』と残っている別の子どもたちの姿を見ると、それぞれの家庭が抱える孤独の深さを感じて胸が痛むこともあります」