退職後の生活では、年金収入や貯蓄に合わせて支出を見直す人もいるでしょう。一方、長年働いてきた経験から、老後もできるだけお金を使わずに暮らそうとする人もいます。節約は家計を守る手段ですが、行き過ぎてしまうことも。ある夫婦の実例から、老後のお金との向き合い方について考えます。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。
「いい加減にして!」年金月17万円・71歳元メーカー課長に、妻、激怒。孫と来ていた「回転寿司店」での一幕 ※写真はイメージです/PIXTA

貯蓄を守ることが目的に…夫婦で見直した老後のお金の使い方

家に帰ってきたあと、恵子さんは茂さんに問いかけます。

 

「お父さん、あれはやり過ぎ。いつまで節約、節約って。お金はいつ使うの?」

 

茂さんは言葉に詰まりました。節約が必要だという考えは変わりません。しかし、孫との食事さえ自由に楽しめない暮らしは問題だと気付いたのです。

 

恵子さんの言葉を受け、二人は家計を改めて確認しました。年金受給が始まるのと同時に仕事を辞め、それからは収入は年金だけです。それから6年。安心・安全のための貯蓄は、1円も減っていませんでした。

 

そして、夫婦は年金生活に入ってからの暮らしを振り返りました。スマートフォンに保存された写真を見返すと、孫の成長は記録されているものの、撮影場所は自宅や娘夫婦の家、その近所がほとんどでした。

 

旅行や遠出はもちろん、家族で外食をした写真もほとんどありません。

 

「この子が大人になったとき、私たちとの思い出って、あまりないんじゃないかな」

 

恵子さんの言葉に、茂さんも考え込んだといいます。貯蓄を守ることを優先するあまり、孫と一緒に楽しめる機会まで減らしていたのではないか。そう気づかされたのです。

 

また茂さんは、これまで自分が中心になってきた家計管理についても、夫婦で話し合うことにしました。将来の医療費や介護費用に備えることは必要です。しかし、貯蓄を減らさないことだけを目標にしていては、今の生活を楽しむ余裕がなくなってしまいます。

 

そこで、毎月の生活費と将来に備えるお金を分け、日々の支出については恵子さんが中心となって管理することにしました。あらかじめ使える金額を決めておけば、茂さんも必要以上に支出を抑えずに済むと考えたからです。

 

「貯金が減らなければ安心だと思っていました。でも、何のために貯めているのか、わからなくなっていたんですね」

 

内閣府『令和7年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の生活と意識に関する国際比較調査)』によると、日本の高齢者は老後の備えとして現在の貯蓄や資産が「足りない」と感じる割合が計56.7%(うち「まったく足りない」28.9%)に上り、将来への経済的不安の強さが伺えます。

 

しかし同調査で、生きがいを感じる時として最も高かったのは「子供や孫など家族との団らんの時」(53.1%)。資産を守る過度な節約によって家族との貴重な思い出を作る機会を減らしてしまっては本末転倒。将来への安心を備えつつ日々の豊かさを楽しむためにも、お金の使い所のバランスを夫婦で話し合っておくことが大切です。