相続では、家族間特有の遠慮や情によって不自然な行動への追及が遅れ、被相続人の死後に初めてトラブルが明るみになることも。事例をご紹介しましょう。※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したものです。
あやしい…突然やさしくなった32歳次男。資産1億6,000万円・87歳祖母の死後、預金通帳から明かされた〈驚愕の真実〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

口下手な長男と、調子のいい次男。祖母宅に通い詰めた「本当の狙い」

「正直、あやしいとは思っていたんです。でも、義母が嬉しそうにしていたから、水を差しづらくて……」

 

関東近郊に住む主婦のケイコさん(59歳)は、数ヵ月前の出来事を苦々しい表情で振り返ります。

 

ケイコさんの夫方の母であるサキさんは、すでに亡くなった義父が貯めてきた預貯金が潤沢にあり、先祖代々の土地を所有する地元の旧家でした。資産の総額は約1億6,000万円。サキさんは夫を亡くしてからは広い屋敷で一人暮らしをしており、80代半ばを過ぎたころから少しずつ物忘れが目立つようになっていました。

 

ケイコさんには息子が2人います。長男はコウジさん(35歳)。地元の中小メーカーで働いており、重い家具の移動や庭木の剪定、病院の送迎などを手伝ってくれる家族想いな息子です。

 

一方、3歳下の次男・マナブさん(32歳)は対照的でした。都内の出版社に勤めたのち、4年前に独立してフリーランスのライターとして活動しています。要領がよく口が達者な世渡り上手で、学生時代から「実家は退屈だし、なんにもない」と滅多なことでは帰省せず、盆や正月の集まりにも顔を見せませんでした。

 

そのマナブさんが、2年ほど前から突如として週末ごとにサキさんの自宅を訪れるようになったのです。手土産の菓子を携え、片道1時間半かけてやってくるマナブさんは、サキさんにとって「気の利く優しい孫」になりました。

 

「おばあちゃん、今日も元気そうだね」「昔から美人だって〇〇さんもいってたよ」「俺、小さいころからばあちゃんっ子だったからさ。一人暮らしで寂しくないように、話し相手くらいにはなるよ」

 

サキさんは「マナブは本当に優しいねえ」と目を細めて迎え入れていました。しかし、通院の付き添いや屋敷の維持管理などは、相変わらずコウジさんとケイコさんが担っている状況。マナブさんは数時間お茶を飲み、サキさんが出す菓子を食べ、話し相手をし、夕方には引き上げていくだけです。

 

ケイコさんは次男の行動に対し、漠然とした猜疑心を抱いていましたが、義父を亡くして寂しがっていたサキさんが喜んでいる姿を見て、それ以上問い詰めることはできません。その不信感が最悪の形で現実となったのは、サキさんが87歳でこの世を去ったあとのこと。

 

葬儀を終え、各種手続きのために金融機関からサキさんの取引履歴を取り寄せました。ケイコさんは、通帳に印字された明細を見て、コウジさんと目を見合わせます。

 

マナブさんがサキさんの自宅に通いはじめた2年前から、一度に50万円単位の現金が何度も引き出されていたのです。出金場所は、サキさんの自宅近くではなく、すべてマナブさんが暮らす都内の最寄り駅周辺のATMでした。2年間で引き出された総額は、約2,400万円にのぼっています。

 

サキさんは晩年、足腰が弱って一人で金融機関へ行くことも難しくなっていました。ケイコさんがマナブさんに問い詰めると、「買い物のついでに記帳してきてあげる」「生活費を下ろしてきてあげる」といって、キャッシュカードと暗証番号を預かったとのこと。事実を確認したあと、マナブさんは悪びれる様子もなくこう答えました。

 

「ばあちゃんから『いつも来てくれてありがとう。自由に使っていいよ』ってもらったものだよ。俺が週末ごとに時間を使って交通費を掛けて話し相手になってあげたんだから、そのお礼としてもらってなにが悪いんだ。ばあちゃん自身が納得して渡してくれた正当な金だよ」