※写真はイメージです/PIXTA
「あなたの別荘のために残す家じゃない」
しかし、ケイコさんには長男の希望が身勝手にも感じられました。家を残せば、固定資産税や修繕費はかかり続けます。庭の管理も必要ですし、冬には雪の問題もあります。
しかも長男が将来、新潟に戻って暮らすと決めているわけではありません。「リモートワークで使いたい」「帰れる場所を残してほしい」という希望です。
「あなたがたまに仕事をするために、お父さんとお母さんが家を維持し続けるの?」
そう尋ねると、長男は「そういう意味じゃない。実家って、そういうものじゃないだろ」と反論しました。
長男にとって、実家は単なる不動産ではありません。自分が育ち、いつでも戻れる故郷です。一方、両親にとっては、これからも維持費と管理の手間がかかる“資産”でもあります。
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年の全国の空き家は900万2,000戸と過去最多。空き家率も13.8%と過去最高になりました。
タツオさん夫婦には、「いずれ誰も住まなくなる可能性があるなら、自分たちが元気で売却の判断ができるうちに手放したい」という思いもあります。さらに、家の売却代金は新しいマンションの購入資金にも充てる予定です。
「貯金があるからといって、この家を残したまま別にマンションを買うほど余裕があるわけではありません。これから医療や介護にいくら必要になるかもわからないですから」
親の家は「子どもの実家」でもあるけれど
長女はいまも、両親と兄の双方の話を聞いています。
「兄が実家をなくしたくない気持ちもわかります。でも、実際にそこで暮らしている両親が大変なら、そちらを優先するべきじゃないかと思っています」
一方、長男は「あと数年待ってもいいのではないか」と主張しています。タツオさん夫婦は、体力があるうちに家を売却し、神奈川か埼玉の中古マンションへ移りたいと考えており、話し合いは平行線のままです。
家族にとって「実家」は特別な場所です。しかし、子どもにとっての「帰れる場所」である一方、固定資産税を払い、修繕し、雪への対応をしながら維持していくのは、そこに暮らす親です。
「子どもたちが帰る場所をなくしてしまうのは、私たちだって寂しいです。でも、この家は私たちの老後を支える資産でもあるんですよね」
ケイコさんはそう話します。住み慣れた家をいつ手放すのか。それとも、子どものために残すのか。実家は思い出の場所であると同時に、不動産という資産でもあります。親が元気なうちだからこそ、その家を「誰のために、いつまで持つのか」を家族で話し合っておく必要があるのかもしれません。