内閣府「令和5年度 高齢社会に関する意識調査」によると、60歳以上の30.4%が、現在または将来的な住み替えを検討しています。新潟県で暮らす70代夫婦も、雪かきや通院への不安から、神奈川か埼玉の中古マンションへの住み替えを計画。ところが、48歳の長男から「実家を売るのは待ってほしい」と思わぬ反対を受けました。
親父、実家を売るのはやめてくれ…〈年金月25万円・預貯金4,000万円〉70代夫婦の老後移住に「まさかの長男ブロック」。48歳長男が強く反対したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

雪かきと通院が不安に…「元気なうちに引っ越したい」

新潟県で暮らすタツオさん(76歳・仮名)と妻のケイコさん(74歳・仮名)。現在の収入は夫婦合わせて月約25万円の年金が中心です。住宅ローンはすでに完済しており、預貯金は約4,000万円あります。

 

総務省「家計調査」によると、2025年の65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入は月平均25万4,395円、うち社会保障給付は22万8,614円。消費支出は26万3,979円で、税や社会保険料なども含めると月平均4万2,434円の不足が生じています。

 

タツオさん夫婦も、「老後資金にはある程度余裕を持たせたい」と考えています。それでも、最近は「元気なうちに住まいを変えたほうがいいのではないか」と話すようになりました。

 

きっかけの一つが冬の雪です。以前は苦にならなかった除雪も、70代になってからは大きな負担になりました。また、自宅の近くには大きな病院がなく、今後どちらかが病気になったときの通院にも不安があります。

 

「80歳を過ぎてから『もうここでは暮らせない』となっても、引っ越し自体が大仕事でしょう。だったら、まだ2人とも元気な今のうちに動いたほうがいいと思ったんです」

東京は難しくても、神奈川か埼玉なら

夫婦には2人の子どもがいます。長男は48歳で独身。エンジニアとして働き、東京都内で一人暮らしをしています。長女は44歳。8年前に結婚し、現在は夫と6歳、3歳の男の子との4人暮らし。神奈川県に住んでいます。

 

夫婦が考えたのは、今の家を売却し、神奈川か埼玉で中古マンションを購入することでした。東京都内は価格面で厳しくても、少し離れれば選択肢はある。駅やスーパー、病院へ行きやすい場所で、夫婦2人で暮らせるコンパクトなマンションを探そうと考えています。

 

東日本不動産流通機構によると、2025年5月の中古マンションの平均成約価格は、東京都が6,901万円だったのに対し、神奈川県は3,777万円、埼玉県は2,807万円。神奈川県でも横浜・川崎市を除く地域では3,136万円でした。

 

もちろん地域や築年数などによって価格は異なりますが、夫婦は2,000万円台後半から3,000万円程度をひとつの目安にしています。

 

「今の家を売ったお金もありますし、預貯金を全部使うつもりもありません。購入後も老後資金を残せる範囲で探したいと思っています」

 

長女に相談すると、「近くにいてくれたほうが私も安心」と賛成してくれました。

 

夫婦は少しずつ具体的な住み替えを考え始めます。ところが、長男に話したところ、予想外の反応が返ってきました。

「実家を売るのは待ってほしい」

「家、売っちゃうの? ちょっと待ってよ」

 

長男は、実家を残してほしいと言いました。最初、タツオさん夫婦は「思い出のある家がなくなるのが寂しいのだろう」と考えました。ところが、理由はそれだけではありませんでした。

 

長男は現在、仕事の多くをリモートで行っています。東京の自宅でも働けますが、ときどき新潟の実家に長く滞在し、そこで仕事をする生活を考えていたというのです。

 

「東京から離れて仕事できる場所があるのはありがたいし、帰る実家がなくなるのは寂しい。急いで売らなくてもいいんじゃない?」

 

さらに長男は妹にも相談しました。

 

「お前だって、子どもを連れて帰れる実家がなくなるのは寂しいだろ?」

 

長女は両親の移住には賛成しています。ただ、兄の気持ちもまったく理解できないわけではなく、両親と兄の間に入ることになりました。