高齢の親がひとりで暮らしていると、急な病気や転倒に家族がすぐ気づけないことがあります。普段は元気に過ごしていても、連絡が取れないとき、離れて暮らす子どもはどう対応すればよいのでしょうか。ある親子の事例から、日頃の安否確認と緊急時への備えを考えます。
「電話に出てよ! 」〈年金月15万円・74歳父〉を心配した52歳娘、翌朝に実家へ駆けつけて目にした「まさかの光景」 ※写真はイメージです/PIXTA

「大丈夫だから」が口癖だった

神奈川県に住む会社員の佐藤陽子さん(52歳・仮名)は、地方でひとり暮らしをする父・茂さん(74歳・仮名)と、週に1、2回電話で話していました。

 

茂さんは3年前に妻を亡くしてから、郊外の戸建てで暮らしています。年金は月15万円ほど。持病はあるものの、身の回りのことは自分でできていました。

 

「父は何か聞いても、いつも『大丈夫だから』で終わらせるんです。病院に行ったほうがいいと言っても、『ちゃんと行っている』。買い物も自分で行けるし、本人は不自由していないつもりだったと思います」

 

陽子さんは仕事が忙しく、平日に父へ電話をかけるのは帰宅後が中心でした。父も夜は早く休むため、電話をする時間帯はおおむね決まっていたといいます。

 

異変が起きたのは、ある月曜日の朝でした。前日の夜、陽子さんは父に電話をかけました。しかし、応答はありませんでした。

 

「日曜日は出かけることもあるので、そのときは特に気にしませんでした。月曜日の朝、もう一度かけても出ない。父から折り返しもなかったので、少し気になったんです」

 

いつもなら、電話に出られなくても、あとから折り返してくる父でした。陽子さんは出勤前にもう一度電話をかけましたが、やはりつながりません。仕事中も気になり、昼休みに連絡してみました。それでも応答はありませんでした。

 

「さすがにおかしいと思いました。父は携帯電話をいつも手元に置いているわけではないので、どこかに置き忘れたのかもしれない。でも、何かあった可能性も考えました」

 

陽子さんは父の近所に住む知人に電話をかけ、様子を見てもらえないかと頼みました。しかし、その知人もすぐには訪ねられない事情がありました。

 

仕事を終えた陽子さんは、父の家へ向かうことを決めます。実家までは車で約2時間半。到着したのは午後8時ごろでした。

 

玄関の呼び鈴を鳴らしても返事はありません。携帯電話にかけても、家の中から着信音が聞こえるだけでした。

 

「電話は家の中にある。それなのに出てこない。そこで、何かあったんじゃないかという思いが強くなりました」

 

陽子さんは状況を確認するため、警察にも相談しました。その後、家の中を確認すると、浴室の前で父が倒れているのを発見しました。

 

茂さんは意識がありましたが、自力で起き上がれない状態でした。

 

前日の夕方、浴室から出ようとした際に足を滑らせ、転倒したといいます。携帯電話はリビングに置いたままで、手を伸ばしても届きません。大声を出して助けを呼ぼうとしても、近所まで聞こえるほどの声は出せなかったそうです。

 

そのまま一晩を過ごし、翌日も動けずにいたところへ、陽子さんが駆けつけたのでした。

 

「父は私を見ると、『悪かったな』と言いました。普段は人に頼るのを嫌がる父が、そう言ったんです。腹が立つ気持ちもありましたが、それ以上に、もっと早く気づけなかったのかと思いました」

 

陽子さんは救急車を呼び、茂さんは病院へ搬送されました。命に別状はありませんでしたが、治療とリハビリのため、入院することになりました。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、2020年(令和2年)には65歳以上人口に占めるひとり暮らし(単身世帯)の割合が男性15.0%、女性22.1%に達しています。さらに将来推計(令和6年推計)によると、2050年(令和32年)には男性26.1%、女性29.3%へと上昇する見込みです。

 

高齢の親がひとりで暮らす家庭は今後も増えていくと考えられます。親が自立した生活を送っていても、急な転倒や体調の悪化が起きた際、家族がすぐに気づけるとは限りません。