65歳以降の雇用機会は広がっているものの、事務職や管理職の求人は限られ、現場作業を中心とした非正規雇用が主流となるのが現実です。現役時代との立場や収入の過酷なギャップと、シニア世代が直面する労働環境の実態を事例から紐解いていきます。
「使えねぇおっさんだな」時給1,320円・66歳シニアバイトが浴びる“娘より年下上司”からの怒声。現役時代は月収100万円の元部長が【住宅ローン1,600万円】を残して定年を迎えた末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

屈辱に耐えながらシニアバイトを続ける理由

「おい、そこのおっさん! またおまえかよ! 使えねぇな、マジで!」

 

真冬の寒い物流倉庫の搬入口。耳を刺すような怒声を浴びせられ、思わず背中を丸めて頭を下げたときの情けない気持ちを、都内在住のツヨシさん(仮名/66歳)は絞り出すような声で吐露します。

 

「指示を出している現場リーダーは、おそらく20代半ば。私の下の娘よりも若いですよ。現役時代は大手機械メーカーで営業部長を務め、月収100万円を稼いでいたプライドなんて、そこではなんの意味も持ちません。頭を下げて、膝と腰の痛みに耐えながら荷物を運ぶのが、いまの私の仕事です」

 

ツヨシさんが時給1,320円のバイトで、罵られながらも働き続ける理由はただ一つ。1,600万円の住宅ローン残債の存在です。

 

30代半ばの乗りに乗っていた時期、ツヨシさんは「自分の稼ぎなら余裕だ」と、駅から近く、ツヨシさんの通勤と娘の通学に利便性のよいエリアに中古戸建てを35年ローンで購入しました。2人いる娘は、二人とも私立の中高・大学へ進学。大学時代には就職に有利になるだろうと、留学にも行かせてやりました。毎月の住宅ローン返済とピーク時の教育費負担は、家計を強く圧迫したのです。

 

「当時は『これだけ稼いでいるんだからなんとかなる』『定年時の退職金でローンなんて一括返済できる』と高をくくっていたんです。でも、完全に甘かった……」

 

業績低迷によるボーナスカットや2人の娘の学費支払いが重なり、貯蓄は思うようにできず、退職金の大半は教育関連の借入返済や当面の生活費へ消えていきました。60歳で定年を迎えたあと、65歳まで同じ会社で再雇用として留まったものの、給料は現役時代の4割以下に激減。そして65歳の契約満了とともにデスクワークの求人は途絶えました。職歴も肩書も一切通用しない現場で、肉体労働をする選択肢しか残されていませんでした。

 

アルバイトを終え、身体を引きずるようにして帰宅すると、いつも妻は起きて待っていてくれるといいます。

 

「痛む膝と腰のことや、来月のローンの引き落としを心配そうに聞いてくるんですが、私は『体を動かしてるほうが健康にいいさ』なんていって笑ってみせるしかありません。現場で若い奴から『使えねぇおっさん』なんて罵られていることなんて、口が裂けてもいえませんよ。娘2人を無事に大学まで出して自立させることができたことだけが救いですが、元大黒柱としてのプライドが、余計に自分を追い詰めているのかもしれません」

 

そう語るツヨシさんですが、66歳にしてなお1,600万円残っている住宅ローンの返済完了予定は、実に78歳。

 

「娘たちのためにも、妻のためにも、自分の見栄のためにも、まだまだ倒れるわけにはいかない。でも、身体がいつまで持つかどうか……」と、ツヨシさんは力なく苦笑いを浮かべました。