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「父に頼まれた」だけでは説明できない2,000万円
確認すると、父の生活費や医療費として説明できる支出は一部にとどまりました。
博さんは介護サービスをほとんど利用しておらず、入院も短期間。高額な治療費が発生したわけでもありません。
一方、まとまった現金出金のなかには、何に使ったのか分からないものが相次いでいました。
「本当に全部、お父さんに頼まれて下ろしたの?」
久美子さんが聞くと、大輔さんは「そうだ」と答えます。
「じゃあ、何に使ったの?」
その問いには、明確な説明がありませんでした。
さらに久美子さんが気になったのは、やはり、父が亡くなる前後の大輔さんの生活です。高級車への買い替えや高額な買い言が続いていた一方、その理由について具体的な説明はありません。
もちろん、それだけで父の預金を使ったとはいえません。
しかし、約3,000万円あったはずの貯金が約300万円まで減り、しかも、その時期に大輔さんが通帳とキャッシュカードを管理していた。
「お兄ちゃんのお金なら、私たちは何も言わない。でも、絶対におかしいでしょ、これ」
久美子さんはそう伝えました。
3人は銀行の取引記録や領収書などを整理し、専門家にも相談しました。その結果、父自身の生活費などとして確認できる支出と、使途を裏付けられない出金を分けることになりました。
最終的に、説明できない金額は約2,000万円に上りました。
大輔さんは当初「父に頼まれた」と主張していましたが、父本人がその意思を示した遺言書やメモ、贈与契約書などは見つかりませんでした。
話し合いの末、大輔さんは、使途を説明できない約2,000万円について、自分が受け取るためのお金ではなかったことを認めました。3人はその金額を遺産として扱い、残った財産と合わせて改めて分けることにしました。
「兄を疑いたかったわけではありません。ただ、何に使ったのか分からないお金を、そのままにして相続を終えることはできませんでした」
最高裁判所『令和7年 司法統計年報(家事編)』によると、全国の家庭裁判所で認容・調停成立となった遺産分割事件(8,321件)のうち、遺産価額「5,000万円以下」の事案が6,457件と全体の約77%を占めています。
今回の事例のように3,000万円程度の資産であっても、生前の財産管理が不透明であれば、親の死後に使途不明金を巡りきょうだい間で深刻な疑心暗鬼を生むケースは少なくありません。
生前の預貯金引き出しは使途不明金や特別受益を巡る問題として紛争化しやすいため、通帳の共有や領収書など、日々、記録の保存など、日頃から透明性の高い管理体制を整えておくことが将来のトラブルを防ぐ鍵となります。
相続では、財産の分け方だけでなく、親が亡くなる前のお金の動きがきょうだいの対立を招くことがあります。家庭裁判所でも、相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらない場合、遺産分割調停という手続きが用意されています。
親の預金を子どもが管理するなら、現金を引き出した日付や金額だけでなく、何に使ったのかも残しておく。「家族だから分かってくれる」は、相続の場面では通用しないことがあります。記録を残しておくことが、後の疑念や争いを防ぐことにつながります。