「自分が元気なうちに墓じまいをして、子どもに負担を残さないようにしよう」。そう考えていても、寺院との話し合いがこじれ、墓じまいが進まなくなることがあります。なかでも困るのが、改葬手続きに必要な墓地管理者の証明を受けられないケースです。寺院が協力してくれなかったら、墓じまいはできないのでしょうか。実際の事例をもとに、行政書士の伊藤昌陸氏が解説します。※プライバシーに配慮して、登場人物の情報に一部変更を加えています。
墓じまいで300万円の高額費用を提示された62歳女性…「あんなにやさしかった住職が協力してくれないなんて…」しかし、〈総額105万円〉で墓じまいができた方法【行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「埋蔵を証明する印鑑がもらえない」…それでは墓じまいできない?

約300万円を支払う前に、裕子さんは行政書士へ相談することにしました。

 

お墓から遺骨を取り出し、別のお墓へ移す「改葬」には市区町村長の許可が必要です。その申請では原則として、現在のお墓の管理者から、遺骨がそこに納められていることの証明を受けます。寺院墓地であれば、通常は寺院の協力が必要です。

 

つまり、寺院から埋蔵証明を受けられなければ改葬許可が取れず、「両親の遺骨を八王子へ移せない」という状況になりかねません。

 

行政書士に相談したところ、埋蔵証明に代わる書類の取得を提案されました。墓地管理者から通常の証明を得ることが難しい「特別の事情」がある場合、市町村長が必要と認める「これに準ずる書面」で手続きできる余地があるのです。

 

「申述書を出せば、どこでも寺院の証明が不要になる」という意味ではありません。何を代替書面として認めるかは、改葬許可を出す自治体の判断になります。裕子さんの場合は市町村長が認める代替書面で手続きを進め、両親の遺骨を八王子へ移すことができました。

墓じまいの費用は、約300万円から105万円に

改葬許可証の取得後は、約300万円と提示された費用の調整もできました。

 

墓石撤去についてほかの業者からも見積もりを取り、「境内の経路確認」「重機費用の値引き交渉」「墓石撤去の相見積もり」「法要代行のお願い」などを一つずつ確認していきました。

 

最終的にかかった費用は、墓石撤去50万円、法要代10万円、出骨代5万円、重機を境内に入れて施工するための費用10万円、離檀料30万円。合計105万円でした。

 

当初提示された約300万円から、約195万円も減ったことになります。

 

もちろん、行政書士に依頼すれば墓じまいが安くなる、という話ではありません。今回大きかったのは、寺院の協力がなければ改葬許可が取得できないという状況から、「墓石が撤去されなければ寺院も困る」という状況になったことです。
 

墓じまいを終えた裕子さんは、こう話していました。

 

「こんなトラブルを私で清算できて、本当にホッとしています。子どもに任せてしまっていたら、改葬許可取得に300万円払ってしまっていたかもしれません。迷惑をかけなくてよかった」

 

もし裕子さんが何もしないまま亡くなっていたら、娘たちは山梨県の寺院へ連絡し、高額離壇料を負担することで、改葬許可の手続きをしなければならなかったでしょう。

 

両親や裕子さんがお寺とどのような付き合いをしてきたのかも、娘たちにはわからないかもしれません。「300万円必要です」と言われれば、そういうものなのかと支払ってしまう可能性はあります。

 

墓じまいは、墓石を撤去するだけの話ではありません。自分が亡くなったあと、誰がお墓を守り、誰が寺院と話をし、誰が手続きをするのか。そこまで整理しておくことも終活の一つです。

 

そして、寺院から埋蔵証明が受けられなくても、「証明書がない=墓じまいできない」とは限りません。

 

寺院との話し合いを尽くしても手続きが止まってしまったら、「墓地管理者の証明を取得できない事情がある」と改葬許可を担当する自治体へ相談してみる。今回のように、そこから別の道が見つかることがあります。
 

 

伊藤 昌陸

AOMA行政書士事務所

代表