認知機能が低下してからでは、どれほど多くの預貯金があっても口座からお金を引き出すことが困難になります。事例とともに、口座凍結トラブルへの備え方について解説していきます。※プライバシー保護のため、事例の人物名はすべて仮名です。
銀行「申し訳ございませんが、あなたは使えません」→妻、怒りの咆哮。75歳夫が必死に貯めた預金5,000万円、〈口座から出せない〉という不条理 (※写真はイメージです/PIXTA)

認知症に伴う「資産凍結」

人は誰しも高齢になれば、身体機能や認知機能が低下していく可能性を回避できません。しかし多くの家庭では、「自分や親はまだ大丈夫だろう」という楽観視から、事前に対策を講じないまま危機を迎えてしまいます。

 

かつては親の通帳と印鑑、暗証番号があれば、子どもや配偶者が代わりに出金できるケースも珍しくありませんでした。しかし近年、金融機関における不正取引防止や高齢者の財産保護の観点から、「口座名義人本人の明確な意思確認」が厳格に運用されるようになっています。第三者への成りすましや親族間トラブルを防ぐ安全策である一方、家族であっても、正当な理由があっても、口座を動かせなくなるという大きなジレンマを生んでいるのです。

 

本人の判断能力が失われたと判断された場合、金融機関は名義人の保護を理由に取引を制限せざるを得ません。この状態に陥ると、家族は以下のような厳しい選択を迫られます。

 

家族による自己資金での立て替え

本人の意思確認が取れない以上、介護施設代や医療費、生活費などを配偶者や子が自身のポケットマネーから立て替え続けなければならなくなります。

 

成年後見制度の利用

家庭裁判所へ申立てを行い、本人の財産を管理する「法定後見人」を選任してもらう手続きです。ただし、家庭裁判所の判断により弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれるケースが多く、その場合、本人の財産から毎月数万円の報酬を支払い続けなければなりません。また、後見人は「本人の財産保全」を最優先するため、家族の都合で自由に資産を動かすことはできなくなります。

 

こうした事態を未然に防ぐための身近な手段として、各金融機関による「代理人指定制度」が挙げられます。この制度は、本人の判断能力が正常なうちに、あらかじめ信頼できる家族を「代理人」として口座に登録しておく仕組みです。これにより、将来本人が病気や身体障害などで窓口に行けなくなった場合でも、指定された代理人が普通口座から預金を引き出すことができます。

 

ただし、この制度も完全な万能策ではありません。利用できるのは基本的に「普通預金口座」に限られ、定期預金の解約や投資信託の売却などには適用されないケースが一般的です。また、登録できる代理人は「二親等・三親等以内の親族」等に限定されているため、頼れる身内がいない単身高齢者などは利用自体が困難です。加えて、引き出しが長期間におよんだり、一度にまとまった額を出金しようとしたりすると、金融機関側からトラブル防止のために正式な「成年後見制度」への移行を促されるケースもあります。

 

親が元気に会話でき、自身の意思を明確に表示できるうちに、家族で金融資産の状況を整理し、代理人指定や家族信託といった事前の手続きを進めておくことが、大切に貯めた老後資金を有効に活用するための不可欠な備えとなるでしょう。

 

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