一緒に暮らす夫婦でも、「家計の管理は配偶者任せ」というケースは珍しくありません。しかし、その“任せっきり”が、配偶者の死によって不測の事態を引き起こすリスクとなることも。事例をご紹介します。※事例の登場人物はすべて仮名です。
不甲斐ないです…65歳の若さで妻、死去。「遺族年金たったの月2,000円・生命保険金300万円」の66歳夫、41歳長女に「助けてくれ」と跪いたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

長年家を任せてきた妻との突然の別れ

地方都市の戸建てで暮らすオサムさん(66歳)は、大学卒業後から40年以上にわたり、営業マンとして猛烈に働いてきました。家庭の管理や日々のやりくりは、結婚を機に専業主婦となった1歳下の妻・アケミさんに全幅の信頼を寄せて任せきり。オサムさんは毎月決まったお小遣いを受け取るだけの生活を送っており、光熱費の引き落とし口座やクレジットカードの支払日、預貯金の詳細すら把握していない状態。定年を迎えて年金生活に入ってからも、そのスタイルが変わることはありませんでした。

 

二人のあいだには、41歳になるひとり娘がいます。娘はすでに結婚して自分の家庭を持ち、車で1時間ほどの場所に住んでいました。妻と娘はこまめに連絡を取り合っていましたが、仕事人間だったオサムさんが娘とじっくり話す機会は盆暮れの帰省時のときだけでした。

 

穏やかな日常が砕け散ったのは、ある冬の早朝のことです。

 

アケミさんが胸の痛みを訴えて突然倒れ、救急搬送されたものの、病院へ到着する前に息を引き取りました。死因は大動脈解離。あまりにも突然の別れに、オサムさんは深いショックで思考が完全に停止してしまいました。

 

悲しみに暮れる間もなく葬儀の手配を進め、家族葬の費用として約100万円の見積もりが提示されました。支払いのために銀行から現金を引き出そうと手元の通帳を探し出しましたが、そこでオサムさんは重大な事実に気づきます。自分名義の口座であるにもかかわらず、暗証番号が一切わからないのです。妻や自身の生年月日を試したものの、間違いが続いて即座にロックがかかってしまいました。長年、口座の管理まで妻に丸投げしていたため、自分でATMを操作した経験すらほとんどなかったのです。

 

金融機関の窓口で手続きを申し出たものの、ロック解除や再発行には数日間の日数を要すると告げられました。現金が手元につくれず途方に暮れるオサムさんを救ったのは、妻アケミさんが長年付き合っていた保険外交員でした。訃報を聞いて駆けつけた外交員が事態を把握し、金融機関での本人確認書類の手配や保険金の請求手続きを親身になってサポートしてくれたのです。おかげで、アケミさんの死亡保険金(300万円)の受け取りとあわせて口座の窓口手続きが無事に完了し、当面の葬儀費用などの支払いは事なきを得ました。

 

しかし、次に直面したのが年金手続きの壁でした。妻が亡くなったことで受け取れる遺族年金について年金事務所へ相談に赴いたオサムさんでしたが、担当者から告げられた支給額は「月額およそ2,000円」という予想外の低さでした。妻の会社員としての厚生年金加入期間が短かったことが理由です。自身の老齢厚生年金とあわせても毎月の手取りは16万円ほどにとどまり、オサムさんは公的保障の現実に打ちのめされました。

 

その後、口座のロックが解除されて確認できた預金残高は約1,700万円。質素に家計を守り抜いてくれた妻への感謝が込み上げる一方で、生活面での試練がオサムさんを襲います。

 

家事を一切してこなかったオサムさんは、自炊ができずに連日お惣菜や外食に頼った結果、毎月の食費だけで年金の大半を使うことに。さらに、洗濯機の操作や風呂の沸かし方すらわからず、娘に「助けてくれ」とうなだれ、跪きました。それからは娘が頻繁に訪ねては一つひとつの家事を教えてくれました。

 

話し相手もいない孤独な日々のなかで意気消沈するオサムさんに対し、娘はある提案を持ちかけます。

 

「お父さん、家を売って私の家の近くに引越ししてこない? 近くにいれば夕飯も一緒に食べられるし、お互い安心だから」

 

娘の温かい差し伸べに救われたオサムさんは、妻との思い出が詰まった実家を処分し、娘一家の近所のマンションへ移り住むことを決意しました。妻がいなくなったらなにもできない自分を猛省したオサムさんは、今後は娘に依存しすぎず、自立して生活力を身につけようと一歩を踏み出しています。