定年を迎えたあと、時間の使い方に迷う人は少なくありません。一方で、仕事を離れたからこそ、現役時代にはできなかったことに時間を使う選択肢もあります。ある男性の事例から、リタイア後の生活について考えていきます。
「70歳でも遅くなかった 」…〈年金月16万円〉元サラリーマン、朝9時から電車で2時間、定年後に通い始めた「意外な場所」 ※写真はイメージです/PIXTA

「老後のため」ではなく、知りたいから学ぶ

文部科学省も、大学等を活用した社会人の学び直しを進めています。大学では、科目等履修生制度や履修証明プログラム、公開講座など、社会人が学ぶためのさまざまな機会が設けられています。

 

2026年9月には、大学等によるリ・スキリングの取組みを充実させる方向性も示されました。関連予算として702億円を要求し、2030年までに大学等におけるリスキリング人口を今の6倍、60万人に増やす目標が掲げられています。

 

高橋さんの場合、何か資格を取るわけでもなく、また仕事に役立てようと考えたわけではありません。最初のきっかけは「何かしなければ」という危機感でしかありませんでした。

 

高齢期の生活では、健康やお金が重要なテーマになります。年金収入の範囲で生活を組み立てることや、医療・介護への備えを考えることも必要です。ただ、それだけで毎日が予定で埋まるわけではありません。

 

内閣府『令和7年度 高齢社会対策総合調査(第10回)』によると、日本の高齢者のうち、日頃から「生きがい(喜びや楽しみ)」を感じている人は64.1%(「大変感じている」22.8%、「多少感じている」41.3%)となっています。生きがいを感じる場面としては「趣味やスポーツに熱中している時」(43.4%)や「旅行に行っている時」(33.3%)などが上位に並ぶ一方で、「勉強や教養などに取り組んでいる時」と回答した人は12.0%。お金や健康面の備えを整えた上で、日々の時間をどのように使い、どのような情熱や生きがいを見出していくかが、定年後の人生の質を左右する大きな課題といえるでしょう。

 

高橋さんにとっては、それが大学での学びでした。

 

講義を聞く。

分からないところを調べる。

同年代の人と話す。

 

好奇心のままに探求をする毎日。時間がただ過ぎていったときと比べて、さらに時間が流れていくスピードは速くなりました。それでも日々が色鮮やかになったといいます。

 

「70歳になったから大学に通うようになるとは思いませんでした。学ぶのに遅いなんてことはないですね」

 

高齢期における学び直しや社会参加は、充実したセカンドライフを築くうえで糧となります。内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上で何らかの学習活動に参加している人の割合は28.4%。また、社会活動に参加している人の84.6%が生きがいを感じており、未参加の人を23.0ポイント上回る結果も示されています。

 

定年後の時間に迷う中で、年齢にとらわれず主体的・継続的に興味・関心を追求することは、日々の生活に豊かなハリを与えるようです。