定年を迎えたあと、時間の使い方に迷う人は少なくありません。一方で、仕事を離れたからこそ、現役時代にはできなかったことに時間を使う選択肢もあります。ある男性の事例から、リタイア後の生活について考えていきます。
「70歳でも遅くなかった 」…〈年金月16万円〉元サラリーマン、朝9時から電車で2時間、定年後に通い始めた「意外な場所」 ※写真はイメージです/PIXTA

仕事がないと「やることがない」70代男性

高橋誠さん(70歳・仮名)。65歳まで会社員を続け、退職後は公的年金を月16万円ほど受け取って生活をしています。生活費に困っているわけではありません。再就職を急いでいたわけでもありませんでした。それでも、退職してしばらくすると、平日の予定がほとんどなくなりました。

 

「仕事をしていないと、驚くほど時間の過ぎるスピードが速い。朝ご飯を食べて、ちょっと経つと、もう昼ご飯。そのあともふと気づくと、日が暮れそうになっている。風呂に入って、夜ご飯を食べて。以前なら、0時を回ってから寝ていたのに、今はすることもないので、21時過ぎには寝室に行く。いつの間にか寝ていて、気づくと朝――その繰り返しです」

 

このような調子で時間が過ぎていくことに、危機感を募らせていた高橋さん。「このままでは、あっという間に寿命が尽きてしまう」と、何かしようと考えました。

 

ただ現役時代、取引先との関係でやっていたゴルフも、実は好きではありません。テレビや映画を観ても、いつの間にか寝てしまいます。どこか旅行に、ということなど頭にも浮かばないほど出不精です。

 

「本当に仕事以外、やることが思いつかない……」

 

そんなとき、電車で、大学が地域向けに開いている公開講座の吊り広告を目にしました。そのときピンときたといいます。

 

「私、こう見えても真面目に大学には行っていたんです。講義が好きという、珍しい学生で。大学卒業時も、院に行きたいという思いもあったんですよ」

 

公開講座なら、大学に正規入学する必要はありません。講座ごとに申し込めるものもあります。調べてみると、大学によって内容や条件は異なりますが、社会人や地域住民に向けて、専門的な知識に触れる機会が色々と用意されていました。

 

高橋さんも最初は「自分の年齢で大学に行って大丈夫なのか」と考えました。それでも思い切って講座へ参加すると、同年代の受講者が多いことが分かりました。休憩時間に講義の内容について話したことをきっかけに、少しずつ顔見知りも増えていきます。

 

「会社にいたころは、仕事以外の話をする相手が限られていました。大学では、同じことに興味を持っている人と話せる。それが意外と楽しかった」