十分な資産を築いて達成したはずのFIREであっても、資金計画が崩壊するリスクが潜んでいます。早期リタイアの裏に潜む資産運用の落とし穴とは。事例をご紹介します。
「資産1億円達成したので、会社辞めます」定年まであと3年だが、早期退職した57歳サラリーマン。わずか1年で夢のFIRE生活が暗転、かつての部下に「バイトでいいから雇ってくれ」と涙目のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

FIREに潜む「不労所得の不確実性」と、シニア層の再就職難

リョウさんの1億円という資産そのものは、同世代と比較しても突出したものです。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)』によると、50代の金融資産保有世帯における平均資産額は1,611万円、中央値は745万円にとどまります。このデータから見ても、リョウさんが築き上げた資産規模自体は非常に優秀な成果であったといえます。

 

しかし、問題はその資産の中身とリスク管理にありました。リョウさんは資産の3割を地方都市の築古アパートに割り当てていましたが、地方の賃貸市場には構造的なリスクが潜んでいます。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会『日管協短観』を見ると、首都圏に比べて地方圏の賃貸物件は空室率が高く推移する傾向があり、競合となる新築物件の供給や人口減少の影響を受けやすい実態があります。さらに、築年数が経過した物件ほど給湯器や屋根等の突発的な修繕費用が発生しやすく、満室想定の利回りだけを前提とした資金計画は容易に狂が生じます。

 

また、ペーパーアセットである株式や投資信託についても、市場の変動によって配当金や評価額が大きく上下します。不労所得が減少した際に生活費を補う目的で元本(投資信託)を売却してしまうと、資産の「産卵能力」そのものが低下し、資産寿命が急激に縮む悪循環に陥ります。FIREの理論で用いられる「4%ルール」などは、長期にわたる安定した市場環境や柔軟な生活費の削減を前提としており、不労所得のブレに対する安全弁を持たない計画は脆弱です。

 

さらに見落とされがちなのが、50代後半で組織を離れることによる「キャリアのリセットリスク」です。定年直前の早期退職は、本来得られるはずだった定年退職金の減額をもたらすだけでなく、一度市場から離れたシニア層が再び同等の条件で再就職することを困難にします。一度手放した雇用立場や定収入を自力で取り戻すことは容易ではなく、不労所得が破綻した際の代替案を持たない早期リタイアは危険です。

 

輝かしく見えるFIRE達成の裏側には、不動産の空室リスク、株式市場の変動リスク、そして再就職の厳しさという複数の落とし穴が存在します。不労所得の不確実性をシビアに見積もり、万が一の事態に対応できる十分な手元資金と柔軟なライフプランを確保しておく必要があるでしょう。

 

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