「55歳で無職になるの?」妻の反対を押し切った夫

2年前、佐伯幸夫さん(現在57歳・仮名)が早期退職により完全リタイアしたいと打ち明けたとき、妻の久美子さん(現在54歳・仮名)は「何を考えているの⁉」と猛反対しました。

幸夫さんは大手電機メーカーに32年間勤務し、年収は約900万円。管理職として責任ある仕事を任される一方、仕事に追われる毎日に疲れを感じていました。それまでは帰宅が夜遅く、家事はほとんど妻に任せきりです。子ども2人は独立し、住宅ローンも完済しています。

そんな折、勤務先が早期退職者を募集。優遇措置によって退職金は税引き後で約5,000万円になる見込みでした。長年の投資で築いた2,000万円と合わせれば、金融資産は7,000万円です。

夫婦の生活費は月28万円、年間336万円。「もう十分働いた。これからは好きなことをして暮らしたい」。幸夫さんは再就職もアルバイトもしない、完全リタイアを決意しました。

「時間もできるし、投資をもっと勉強して年4%くらいの運用益を目指そうと思う」

しかし、派遣社員として年収約300万円を稼ぐ久美子さんは猛反対。「投資なんて思いどおりにいくわけがないでしょう。暴落したらどうするの? それに親戚や近所の人に『夫は無職です』なんて言えないわ」と訴えます。

久美子さんにとっては、ただでさえ自分自身が雇用の不安定な派遣社員なのに、夫が安定した収入を手放してしまうことも不満でした。

幸夫さんは妻が仕事を辞めた場合も含めた家計の試算を見せ、「君の収入に頼りきりになるつもりはない。これからは掃除も洗濯も、買い物も夕食作りも僕がやる」と約束。久美子さんは不安を残しながらも、幸夫さんの退職を受け入れました。

退職から2年後の暮らし

それから2年。幸夫さんは平日の家事をほぼ引き受け、空いた時間に家庭菜園や旅行を楽しんでいます。帰宅後に家事に追われなくなった久美子さんも、自分の趣味に使える時間が増えました。

金融資産は運用による増減を経て約6,800万円。減ってはいるものの、生活設計を揺るがすほどではありません。

「最初は絶対に反対だったけれど、今は辞めてくれてよかったかも」

久美子さんの言葉に、幸夫さんは笑顔を見せます。