長年勤め上げた会社を定年退職し、念願のセカンドライフを迎えたはずが、高額な退職金の使い道や、退職後の家族との接し方を誤り、家庭内で孤立してしまう――ある元会社員の事例から、定年後の家庭における居場所づくりについて考えます。
「俺の居場所は車の中だけか…」〈退職金2,500万円〉憧れの高級車を買った64歳、家族に「邪魔」と言われ愛車へ逃げ込んだ男の葛藤 ※写真はイメージです/PIXTA

車内しか居場所のない現実と定年前に必要な家族関係の再構築

車内であればエアコンを効かせ、誰にも干渉されずに過ごすことができました。大谷さんは運転席のシートを倒し、スマートフォンの動画やニュースを眺める時間が増えていきます。「自分の家でありながら居場所が車の中しかない」という事実に、虚しさを覚えるようになったと大谷さんは振り返ります。

 

さらに、購入した高級輸入車の維持費が新たな問題を引き起こしました。高額な車検費用や任意保険料、毎月のハイオクガソリン代などが家計を圧迫します。

 

また、車の購入に際し、何も言わなかったわけではありませんが、十分な話し合いがあったわけではありません。そのことが恵子さんの不満を募らせていました。

 

「2,500万円の退職金があるからといって、勝手に高額な買い物をされたら老後の生活設計がおかしくなる」

「そんな車を買うくらいなら今後の医療費やリフォーム費用に残してほしかった」

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』(2025年)によると、老後の生活に対して「心配である」と回答した二人以上世帯は全体の約8割(78.2%)。その不安の具体的な理由(複数回答)としては、「十分な金融資産がないから」(61.9%)が最も多く、次いで「年金や保険が十分ではないから」(42.4%)や「物価上昇等により費用が増えていくとみているから」(33.5%)といった項目が上位を占めています。

 

退職金という一括の収入を得た際に、将来の生活費の試算を行わずに高額な趣味の支出へ充てる――配偶者の不安を増大させることになっても仕方がないでしょう。

 

大谷さんは、愛車の車内に閉じこもる生活を続けるなかで、現役時代に「外で働いているから」と家庭を省みず、退職後も相談なしに大きな買い物をした姿勢を深く反省したといいます。

 

そして車の維持費は自らの小遣い枠の中で調整し、無駄な長距離ドライブを控えるようになりました。同時に、日々のゴミ出しや風呂掃除など、自分ができる家事を自主的に担当し始めています。恵子さんとも今後の生活費や老後の暮らしについて、話し合う機会を意図的に増やしたのだとか。

 

自慢の愛車に逃げ込むのではなく、家族と向き合い会話を重ねることが、結果として家庭内に新たな居場所を作り出す一歩となったようです。