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定年後に始めた投資で、思わぬ逆効果
「投資なんて、無縁だったので……少しワクワクしていました」
ところが、問題は投資を始めてからでした。
「今日は米国市場がどうなった?」
山本さんが購入したのは、海外株式を中心とする投資信託です。昼間は気になりませんでした。しかし、夕方になるとスマートフォンを確認するようになりました。米国市場が開く時間が近づくと、ニュースや経済情報を検索します。米国市場は日本時間の夜に始まります。
「午後10時すぎになると、どうしても見てしまうんです」
最初は一度確認するだけでした。ところが、値動きが大きかった翌日から様子が変わりました。
午後10時半に確認。
午前0時すぎにもう一度確認。
午前2時ごろ、目が覚めるとスマートフォンを手に取る。
朝起きて、また確認する。
「寝る前に見なければいいと分かっているんです。でも、寝ている間に大きく下がっていたらと思うと、怖くて」
再雇用後も週5日、午前9時から午後5時までが勤務時間です。
「何度も何度もスマホでチェックしているから、仕事中は眠くて眠くて……」
また値動きに一喜一憂し、ストレスに感じることが多くなったからでしょうか。胃がキリキリすることも。何かあってはと思い病院を受診しましたが、大きな異常は見当たりませんでした。
そのような様子を見ていた妻から、「あなた、やっぱり投資は向いてない。これ以上のめりこむ前に、やめたほうがいいんじゃない?」と言われる始末。
「妻に言われてハッとしました。老後の安心のために資産運用を始めたのに、毎晩不安になって胃を痛めていたら世話がないですよね。自分は根っからの慎重派なんだと、痛感しました」
そう語る山本さんは、運用の規模を大幅に縮小することにしました。1,000万円のうち大半を定期預金に戻し、NISAでの運用は毎月数万円の定額積立に変更。「これなら下がっても気にならない」と思える金額まで下げたことで、ようやく夜も眠れるようになったといいます。
金融経済教育推進機構『金融リテラシー調査(2025年)』によると、期待収益率が+5%の投資に対しても「投資しない」と答えた、損失回避傾向が強い人の割合は全体の72.8%に上ります。また、購入経験があっても商品性を十分に理解せずに投資信託を購入した人の割合も29.3%に達しています。
新NISAの普及で投資のハードルは下がりましたが、山本さんのように自身の「リスク許容度」を把握しないまま、いきなり多額の資金を投じるのは禁物。まずは少額から始め、自身の性格や生活防衛資金を考慮し、心理的にストレスのない「心地よい投資額」を知ることが重要です。