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通帳に記されていた謎の振込履歴
ある日、母から「腰を痛めた」と連絡が入ります。心配になった健介さんは、有給を取り実家へ向かいました。しかし想像に反し聡子さんは元気で「何をそんなに大げさに」と笑い飛ばされたとか。確かに、健介さんは話を大きく捉えてしまったという自覚もありました。
「せっかく、有給まで取ったのに――」
そこで、しばらく実家でゆっくりすることにしました。いつもの帰省は家族と一緒で、親子水入らずになるのは思い出せないくらい久しぶりです。
そして滞在2日目、近所のスーパーに買い物に行ってくると出かけて行った聡子さん。ひとりになった健介さん、ふと、タンスの上にあった貯金通帳が目に入ります。
親とはいえ、勝手に見るのはいけないと思いつつ、手に取ってしまったのです。おそるおそる通帳を確認すると、気になる振込がありました。毎月、約3万円。送り先は、知っているような知らないような――。
帰ってきた聡子さんに、勝手に通帳を見てしまったことを詫びつつ、送り先が誰なのか尋ねます。聡子さんは少し黙ってから答えました。
「お父さん」
「……父さん?」
「そう」
聡子さん曰く、離婚してから、しばらくは連絡をとっていなかったそうです。しかし日本が未曽有の大災害に襲われたあと、久々に連絡があり、そこから年に何度か連絡を取るようになったとか。そして数年前からは生活費として毎月3万円ほど送っていたそうです。父も70代になり、年金だけでは生活が苦しくなっていました。
親が離婚したあと、健介さんは一度も父親とは会っていません。「父は親としての務めをすべて放棄して出ていった」と、今まで生きてきました。どこか憎み、名前すら思い出せなくなっていました。
「なんで助けるんだよ」
健介さんは母に問い詰めました。
「困ってるって聞いたから。頼まれたわけじゃない」
話を聞いてもよく理解できなかったと健介さん。連絡を取り合っていることをなぜ黙っていたのか問い詰めたところ、「あなた、怒るでしょ」と返されたそうです。
これまで家族を置いて出ていった父親とは、完全に関係が切れたと思っていました。しかし、母と父が細い糸ながらも繋がっている……何十年ぶりに家族の繋がりを感じることができて、涙が止まらなくなったといいます。
ただ月12万円の年金の母が、月3万円も身を削っていることとは話は別。聡子さんが3万円を送り続けるなら、健介さんは聡子さんに月3万円を仕送りすると宣言して、東京に戻りました。
それから聡子さんが父にお金を送り続けているか、健介さんは知りません。ただ、あれから健介さんは月3万円の仕送りを続けているそうです。
国立社会保障・人口問題研究所『2022年生活と支え合いに関する調査』によると、高齢者のみの世帯で生活費用の担い手に同居していない「子ども」を挙げた割合は10.9%にとどまり、日常の直接的な金銭援助は一見少数派です。
しかし、同研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、遠方(片道60分以上)に暮らす単身男性のうち、過去1年間に別居の父親へ金銭的な「経済的支援を行った」割合は59.6%に上ります。データからは、表面化しにくい親世代の「大丈夫」の裏で、別居する親子が支え合う実態がうかがえます。