※写真はイメージです/PIXTA
「せっかくの新築なんだから、全部見せてよ」
「まさか、もう来ないでと言われるなんて思ってもみませんでした」
そう話すのは、夫(75歳)と暮らすユキコさん(72歳・仮名)です。
夫婦の年金収入は合わせて月約30万円。現役時代から堅実に貯蓄を続け、現在も4,000万円ほどの金融資産があります。
総務省「家計調査」によると、2025年の65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入は月25万4,395円。そのうち社会保障給付が22万8,614円と約9割を占めます。一方、消費支出は月26万3,979円で、税金や社会保険料などを除いた可処分所得は22万1,544円。平均的には、毎月の収入だけですべての支出を賄えるとは限らない状況です。
その点、ユキコさん夫婦の暮らしには比較的余裕がありました。
一人息子は44歳。共働きの妻と小学生の子ども2人の4人暮らしです。
夫婦はこれまでも孫の入学祝いや習い事など、折に触れて息子一家を援助してきました。そして昨年、息子夫婦が念願の一戸建てを購入することになった際にも、住宅取得資金として数百万円を贈りました。
ちなみに、父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば、2026年12月31日まで、省エネ等住宅では1,000万円、それ以外の住宅では500万円まで贈与税が非課税となる特例があります。
もっとも、ユキコさん夫婦に「節税して財産を移そう」といった大げさな意識があったわけではありません。
「私たちも若いころは住宅ローンが大変でしたから。少しくらい助けてあげられればと思っただけなんです」
そして、家が完成すると、当然のように「見に行きたい」と息子に伝えました。
迎えてくれた息子夫婦と孫たち。広いリビングを見て、ユキコさんは「素敵ね」と感激しました。
ところが、そこで終わりません。
「キッチンの奥はどうなっているの?」
「パントリーもあるのね。見せて」
「2階も見ていい?」
「ここが寝室?」
「クローゼットも広いのね」
ユキコさん夫婦は、新居を次々とのぞいて回りました。
息子の妻が少し困ったような表情を見せたことには気づきました。しかし、ユキコさんは深く考えませんでした。
「私たちの世代だと、新築のお披露目って家中を見せるものだったんですよ。親戚の家でも寝室まで普通に見せてもらっていましたから」
悪気はなかったといいます。
数日後、息子から届いた「しばらく来ないで」
それから数日後。息子から電話がありました。
「しばらく、うちに来るのはやめてほしい」
ユキコさんは耳を疑いました。
聞けば、息子の妻が「もう義両親を家に呼びたくない」と訴えたのだといいます。
「そんなに嫌だったなら、そのとき言ってくれればよかったのに」
思わずそう返すと、息子から予想外の言葉が返ってきました。
「今回だけじゃないんだよ」
息子夫婦は共働きです。それにもかかわらず、ユキコさん夫婦は多いときで2週間に1回ほど息子宅を訪れていました。
「孫の顔を見たい」と連絡を入れ、時にはお菓子や果物を持って顔を出す。家に上がれば、「ここ、もう少し片付けたほうがいいんじゃない?」「子どもにはこうしたほうがいいわよ」と口を出すこともありました。
ユキコさんにしてみれば、どれも息子一家を思ってのことでした。
しかし息子は言います。「休日くらい家族だけでゆっくりしたいときもある。ずっと嫌だったけど、いろいろ援助してもらっているから、僕も妻も強く言えなかった」
そして今回、新居の寝室や収納まで当然のように見て回られたことで、妻の我慢が限界に達したのだといいます。
ユキコさんはショックを受けました。
これまで孫にも普通に会わせてもらっていました。息子の妻とも、決して険悪な関係ではありませんでした。
「むしろ仲がいいと思っていたんです」
すると息子は、さらにこう続けました。
「お金を出してもらったから、断りにくかった。それなら援助してもらった分を返してもいい。だから、しばらく放っておいてほしい」
その言葉に、夫も激怒しました。
「親が子どもを助けるのは当たり前じゃないか。そんなつもりで金を渡したわけじゃない」
ユキコさんも同じ気持ちでした。
「援助したから言うことを聞けなんて、一度も言ったことはありません」
それもまた本心なのでしょう。