厚生労働省『2025年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の平均所得は336万1,000円で、その61.3%を公的年金・恩給が占めています。また、平均貯蓄額は1,647万6,000円でした。親の年金や貯蓄を頼りに暮らす子がいる家庭では、親亡き後に生活基盤そのものを失うケースもあります。ある親子の事例から、その実態をみていきます。
「親の年金月12万円」で暮らす54歳息子、母急逝後に発覚した「2,000万円消失」に絶句 ※写真はイメージです/PIXTA

54歳男性「母さんがいれば大丈夫」

田中健一さん(54歳・仮名)。東京都内の実家で母親と暮らしていました。

 

田中さんが実家に戻ったのは47歳の時。勤務先の業績悪化を理由に退職。その後、転職活動を続けたものの、思うような仕事が見つかりませんでした。

 

当初は「半年もあれば再就職できる」と考えていました。しかし、半年が1年になり、1年が3年になりました。その間、ずっと仕事をしていません。収入がないなか、母親が受け取っている月12万円の年金が頼りでした。幸い、家は持ち家。負債らしい負債もなく、質素倹約を貫けば、月12万円でも何とか生活ができていたそうです。

 

最初は収入がないことに引け目を感じていたそうです。転職活動を怠けていたわけではありません。応募しても、応募しても、採用されないだけ。正社員はあきらめて、契約社員でも、アルバイトでも、収入を得るためなら、ほかに手段はありました。

 

しかし、「母さんの年金で生活できているなら、無理して働かなくてもいいだろう」と考えるようになり、正社員以外の選択肢をとることなく、そのうち、就職活動も辞めてしまったといいます。

 

母親も、息子を追い出すことはできませんでした。夫を亡くしたあと、家に一人でいるより息子がいるほうが安心だったからです。そんな2人の生活を支えていたのが、もう一つのお金でした。

 

夫の死後、美智子さんが受け取った遺産です。父親は亡くなる前、預貯金や保険など合わせて約2,000万円の資産を残していました。相続人は妻と子の健一さん。ただ、話し合いの結果、2,000万円はほぼすべて美智子さんが相続することになりました。

 

「母さんはお金を持っている。いずれ、そのお金は自分のものになる」

 

そのような事実も、働く意欲を減退させた理由のひとつでした。

 

内閣府『令和4年度 こども・若者の意識と生活に関する調査』によると、40〜69歳の「広義のひきこもり(仕事や学校に行かず、他者との交流を避けて自宅にこもる状態が6ヵ月以上続く人)」のうち、90.3%が「過去に就業経験はあるが、現在は無職」の状態です。また、こうした中高年のひきこもり世帯において、主に世帯の生計を支えている人の主な収入源は「年金」が56.8%と半数以上を占めています。