あるオーナーのトラブル事例~契約書作成とチェックの重要性~
佐藤さん(仮名・50代)は、静岡県に海が見える戸建ての別荘を所有する不動産オーナーです。子どもたちが独立して昔のように別荘に泊まりに行くことも少なくなったので、使わない期間は貸別荘として民泊運営することにしました。
ネット検索などを使い、開業の申請手続きや清掃、民泊サイトの運営をすべて任せられる代行業者を見つけました。
打ち合わせの席では、営業担当から、フロント業務の連絡受付や宿泊者からのクレームは24時間対応であること、サイト運営にも経験があること、清掃品質や価格調整にも実績があることを伝えられたうえ、手数料率も12%という好条件を提示されたため、佐藤さんはそこにお願いすることを決意しました。同時に、希望の宿泊料金などについてもその場で伝えていました。
ところが、実際に運営を始めてみると、まったく謳い文句とは異なる管理実態が露呈したのです。
開業申請では、もともとはすべて管理会社が代行するはずでした。しかし、ふたを開けてみると、「駆けつけの手配はオーナー側で探してほしい」「消防設備で想定以上に費用が掛かった」など、事前に伝えられていなかったことが次々と発生していきました。
また、運営開始後は、宿泊者から「部屋が汚くてもう泊まりたくない」「鍵が開かなくて連絡したが返信がない」というクレームをたびたび受け予約が伸び悩み、佐藤さんの考えていた収益の見通しが立てにくいという状況になってしまったのです。また、月の売上が立たなかった結果、管理会社からは「最低料金として5万円が発生する」と伝えられ、契約時に説明がない内容まで請求されてしまいました。
状況が改善しないままだったため、疑問を感じた佐藤さんは、業者と締結した合意書を改めて確認しました。一読すると、ごくごく一般的な事項が記載されているようですが、細かく確認したところ、クレーム対応に関する対応範囲や時間、また最低料金に関する注意書きの記載がありました。早めの解約も検討しましたが、最低契約期間が1年間になっていて、期間中の解約は違約金が多額にかかってしまう内容でした。
業者の業務内容の確認や契約書の作成など、佐藤さんの対応は正しいものではありましたが、それでも十分ではありませんでした。契約書の文言の微妙な言い回しをもっと注意深く確認したり、専門家に見せて相談したりしていれば、契約の交渉や業者の選定のところで、もっとうまく立ち回ることができたかもしれません。
運営代行会社との契約では、どこまで業務を委託するのか、管理料はいくらなのか、トラブルが発生した場合は誰が対応するのかなど、民泊運営の基本的なルールを決めていきます。一方で、全国には4,500以上の住宅宿泊管理業者が存在しています※。
※ 2026年7月15日時点(住宅宿泊事業法の施行状況 | 民泊制度ポータルサイト「minpaku」)
そのため、契約書の内容について、業者からの「一般的な内容で作成しています」といった言葉を鵜呑みにし、隅々まで留意せずに契約したり、重要な点を契約書に明記しないまま契約したりすると、日々の業務の中で「思っていたサービスと違う」という事態になるリスクが出てきます。
そこで以下では、運営代行会社と契約書を作成する際などに、最低限チェックしておきたい重要事項を解説します。
今回紹介するチェックポイントは、下記の5点についてです。
当事者情報
委託業務の範囲
管理料や費用
責任分担
契約期間や解約方法
①当事者情報…希望する業務を託せる業者かを確認
先述の佐藤さんとは別のオーナーさんの例です。その方は建設中の栃木県那須エリアの別荘で民泊運営しようと考え、ある委託会社と話を進めていました。ところが、契約直前になってその会社が住宅宿泊管理業者ではないことが発覚。急遽、別の管理会社を探すことになりました。そのため、開業時期が予定よりも大幅に遅れ、ハイシーズンを逃してしまいました。
民泊関連のサービスを提供する会社であっても、すべてが住宅宿泊管理業者とは限りません。
住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊管理業務を委託する場合には、国土交通大臣の登録を受けた住宅宿泊管理業者であるかどうかも、契約前に確認しておきたいポイントです。
②委託業務の範囲…希望する管理を任せられる業者か確認
契約書の文面で確認したい重要事項は、委託する業務の範囲です。
佐藤さんのケースでは、契約書をよく見ると、夜間のクレーム対応などの業務について、代行業者が速やかな対応をしなくても言い逃れできてしまう内容になっていました。
また「運営代行会社へ依頼すれば、民泊運営をすべて任せられる」と考えて契約をしたものの、契約書を見ると、トラブルの内容や種類で、オーナーへの報告と協議を経なければ対応を進めないと規定されていることなどもあり得ます。
その場合、宿泊客とトラブルが発生した際、管理業者から連絡を受け、急いで対応方針を一緒に検討しなければならなくなります。さらに、現地精算の宿泊料金の受領や精算まで代行を依頼するケースでは、その受領や精算方法までルールを明記しておいたほうが良いでしょう。
そのため、「どこまで管理会社が対応してくれるのか」だけでなく、「どのような場合にオーナーの対応や協議が必要になるのか」「宿泊料金の受領や精算は誰が担当するのか」といった点まで確認しておくことが大切です。
契約書では、業務内容を定めた条項だけでなく、別紙が添付されていて、業務一覧などに具体的な内容が記載されていることも多いです。契約前に一度目を通し、不明な点は担当者などに確認しておくと安心です。
③管理料や費用…民泊運営にかかる費用全体を確認
民泊事業を始めるオーナーにとって、最も気になるのが「どれくらいの利益が見込めるのか」ではないでしょうか。
重要性は理解しつつも、契約書を作成せずに運営がスタートしてしまい、手数料が曖昧なままとなって、後にトラブルになったケースも耳にします。
契約書に記載された運営代行会社への管理料(報酬・委託料)や計算方法、費用の負担や精算方法の確認は非常に重要です。
例えば、手数料の計算では、宿泊予約サイト(OTA)への手数料や清掃費、消費税などを含めて計算するか否かなど、各社によって計算方法に違いがあります。
また、管理料だけでなく、清掃費やリネン代、アメニティ代といった備品費用、修繕費などをどちらが負担するのかについても、運営代行会社との契約内容に盛り込まれていることが多く、オーナー負担とされていることも少なくありません。
さらに、民泊の運営には、固定資産税などの公租公課や所得税などの税金のほか、宿泊予約サイト(OTA)へ支払う手数料、PMS(予約管理システム)の利用料など、運営代行以外の側面からも費用が発生します。
これらの費用を十分に確認しないまま契約すると、民泊運営を始めてから「想定していた収支と違う」ということになりかねません。
契約前には、管理料だけでなく、民泊運営に必要となる費用全体を踏まえ、どの程度の収益が見込めるのかをシミュレーションしておくことが大切です。民泊事業のコンサルタントや仲介業者の方に相談しながら収支を確認しておくと、より安心して事業をスタートできるでしょう。
④責任分担…トラブル発生時の責任分担を確認
民泊では、宿泊客が宿泊する中で思わぬトラブルが発生することもあります。
例えば、宿泊客が室内で転倒してけがをしたり、設備を破損したり、近隣住民との間でトラブルになったりするケースも考えられます。
このような場合、「運営代行会社へ委託しているので、すべて管理会社が対応してくれる」と考えることには注意が必要です。実際には、宿泊施設のオーナーとして対応を求められる場面もあります。宿泊契約自体は、宿泊者とオーナー側との間で結ばれるため、宿泊サービスを提供する主体は、第一にオーナー側であるからです。
また契約書には、管理会社がどのような場合に損害賠償責任を負うのかについて定められていることも少なくありません。実際に損害賠償責任が発生するかどうかは、事故の原因や契約内容などによって判断されますが、万が一の事態に備え、責任分担や損害賠償に関する条項にも一度目を通しておくと安心です。
⑤契約期間や解約方法…速やかに解約できるのか等を確認
冒頭の佐藤さんのケースに戻りましょう。佐藤さんは、自分の希望を無視した業者の管理に辟易し、管理委託契約を解約しようとしました。
しかしながら、その契約は、1年間の最低契約期間が定められており、その期間までに中途解約をしようとすると、解約金を支払わなければならない規定になっていたのです。
代行会社との契約期間や解約方法については、ぜひ事前に確認しておきたいポイントです。
例えば、「管理会社を変更したい」と思っても、契約期間中は自由に解約できなかったり、解約の数ヵ月前までに通知しなければならなかったりする契約もあります。また、契約内容によっては、違約金や中途解約に伴う費用が発生するケースも考えられます。
この点を確認しておかないと、「別の運営代行会社へ変更したいのに、すぐには契約を終了できなかった」ということにもなりかねません。
さらに、契約が終了する際には、鍵や備品の返還、宿泊予約が入っている場合の引継ぎや宿泊者情報の引継ぎ、宿泊料金の最終精算などについても確認しておくとよいでしょう。
重要事項は事前にチェック、必要があればコンサルに相談を
契約書には、どこまで業務を委託するのか、管理料や費用の負担、トラブルが発生した場合の責任分担、契約期間や解約方法など、事業を進めるうえで重要な事項が定められています。
こうした事項を事前にチェックのうえ、場合によっては営業で謳っている事項を契約書に明記してもらうよう交渉し、契約を締結しましょう。
もっとも、契約書の注意だけではカバーできないリスクもあります。エリア内に有名な業者が1、2社しかなく、業者に一方的な条件で営業を行っていることもあるかもしれません。
営業時には稼働率の高さをアピールされていたのに、実際にはまったく集客できないケースなどもあるかもしれません。こうした問題は、必ずしも契約書チェックなどだけではカバーできず、どれだけよい業者に巡り合えるかというところも大きいでしょう。
民泊事業を始めるにあたっては、契約内容だけでなく、自分に合った代行業者と出会うこと自体が大切です。民泊事業のコンサルタントや仲介業者とも相談しながら、ご自身に合った運営代行会社を選び、民泊事業をスタートしていただければと思います。
※本記事で紹介する事例は、特定の実在する事案とは無関係です。
東急不動産ホールディングスグループの「ReINN(リイン)」では、民泊の参入戦略の設計から、物件購入、融資、開業、運営体制の構築、出口戦略までを統合的に支援し、あらゆる人が手軽に宿泊事業を運営できる仕組みを提供しています。民泊物件の売買に強い不動産会社や、民泊ローンの提供が可能な金融機関との連携、全国の住宅宿泊管理業者とのネットワークを駆使し、収益性と節税のバランスを考慮した安定的な運営をサポートいたします。

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<監修者プロフィール>
原田 大士
横浜パートナー法律事務所
弁護士
