今後、民泊の成長市場は「地方」へとシフトする
――民泊事業拡大の背景からお話を伺いたいと思います。インバウンドが盛り上がっているなかで、民泊市場に対する期待が高まっています。将来的にどのような進展が期待できるのでしょうか。
赤津:東京を中心に、大阪、名古屋、福岡、札幌といった大都市圏においてインバウンド需要が戻ってきたと感じていますが、一方で「観光公害」ともいうべき負の側面も生じている実情があります。また、都市部の場合はインバウンドの増加がそのまま民泊市場の拡大につながるわけでもなく、個人的には、都市部における民泊の役割は一定の区切りを迎えたのではないかと思っています。
データを見てもその偏りは鮮明です。観光庁「住宅宿泊事業法の施行状況」によると、現在稼働している全国の届出住宅数のうち、東京23区だけで約40%を占めています※1。民泊の「供給」は、法施行以来一貫して都市部、とりわけ東京に集中し続けてきました。
※1 出典:民泊制度ポータルサイト https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/construction_situation.html
ところが、需要側は逆の動きをしています。同庁「宿泊旅行統計調査」によると、2015年からコロナ禍前の2019年まで、一貫して地方部の外国人延べ宿泊者数が上回っており、コロナ禍明けの2023年、2024年は三大都市圏が伸びたものの、2025年からは再び地方部が追い越しているのです。
つまり、供給は都市に偏ったまま、需要は地方へ動いている——このミスマッチこそが、地方における民泊の大きな成長余地を示していると思っています。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」
その意味では今後、民泊が成長市場として求めるのは地方だと考えています。地方創生や空き家問題の解決といった流れの中、観光客の受け皿となる宿泊施設となり、発展への道筋となるのではないかとみています。
現在、都内では大手デベロッパーによるホテルへの大規模投資が進んでいますが、地方は人手不足や建設コストの高騰で投資に見合うだけのリターンが期待できず、同様の大型開発はなかなか行われません。しかし、だからこそ、地方にある既存の遊休資産を活用する民泊には、大きなポテンシャルがあります。
都心部は不動産価格の高騰で収益物件のリターンが大幅に低下しており、たとえば表参道には「利回り1.2%」という物件もあります。しかし、高い利回りを求める投資家は少なくなく、地方の物件が注目されているのです。
インバウンドの旅行客に対し、地方は圧倒的に宿泊施設が足りません。これまで東京で賃貸などの収益不動産を手がけていた会社が、今後地方へ流れていく潮流ができれば、需要と供給のバランスが取れ、民泊・旅館業市場はさらに伸びていく余地が大きいと考えています。
民泊投資のハードルは「複雑な許認可」「マーケット情報の欠如」「管理運営会社の落差」
――INNsight by ReINN のデータベースを見ると、民泊投資を阻む課題が数字として浮かび上がってきます。具体的にどのようなハードルがあるのか、教えてください。
赤津:第一に「許認可の複雑さ」があります。建築基準法上、「住宅」と「非住宅」は扱いが異なり、宿泊事業の中でも「住宅宿泊事業法」と「旅館業法」の2つに分かれています。既存の建物をこれらに適合させていくのは法律的なハードルが高く、さらに各自治体によって法令の解釈や条例の基準が微妙に異なります。消防署や保健所との交渉・対応は、一般の方にはハードルが高いでしょう。
第二は「マーケット情報の欠如」です。歴史の浅いマーケットなので、どの程度の利回りで売買されているかなど、取引事例のデータが整理されていません。通常の賃貸であれば「築年数」と「立地」が主な評価要因ですが、民泊はそこに「許認可の種類」や「運営体制」が紐づいてくるため、データが揃わないと正しい評価ができないという問題があります。
第三は「オペレーター(運営会社)付き不動産」という特殊性です。一般的な賃貸であれば、管理会社A社・B社・C社のどこに任せても、賃料が倍違うといったことにはなりません。しかし、民泊・旅館業の場合はボラティリティが非常に大きく、優秀な管理運営会社(住宅宿泊管理業者)に任せれば売上が2倍になり、悪い管理運営会社だと相場の半分に落ち込む、といったことも起こります。管理運営会社のよしあしを見極めるのも大変です。
ちなみに、国への届け出を済ませている管理運営会社の数は、登録ベースで4,300件に達しており※2、それだけの数の中から、自分に合った業者を自力で選ぶのは非常にハードルが高いと言えます。
※2 出典:民泊制度ポータルサイト https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/construction_situation.html
超高利回りの事例もあれば、収益ゼロの事例も…厳しい実情
――既にアパートやマンションを所有している不動産オーナーで、民泊に興味を持っている方も多いと思います。実際に参入する際の注意点は何でしょうか。
赤津:弊社のお客様でも「利回りが高いから民泊をやりたい」という方が多くいらっしゃいます。しかし、賃貸と同じように、業者が物件を持ってきてくれて、融資も付けてくれて、客付けからレポーティングまですべてお任せで効率よく投資できるわけではありません。
例えば私の知人は、城崎温泉エリアの物件で利回り120%を達成しています。温泉地という立地特性を活かした運営が功を奏した事例ですが、逆にまったく収益が出なかったという事例もあります。
「期待値で120%回る可能性があるということは、0%になるリスクもある」というボラティリティを正しく認識しなければなりません。しかも現状においては、市場データが揃わないなかで、自分で情報を調べるか、信頼できる専門家に頼って独自の評価軸を作った上で参入することが不可欠です。
もちろん、悪い面ばかりではなく、手間を掛けることで高い利回りを目指せる点には注目していいと思います。
旅館業物件売買サイト「INNsight by ReINN」開発の理由
――旅館業物件売買サイト「INNsight by ReINN」を開発されましたが、その背景を教えてください。
赤津:この事業を始めたきっかけは、自分自身が二拠点生活をしたいと考えたからです。コロナ禍でリモートワークが普及し始めた当時、出社日が週1回となったことから、千葉県の勝浦に物件を購入し、自分が使わない日は民泊として貸し出す「二拠点生活+民泊運用」を計画したのです。
しかし、いざ物件を見に行っても、民泊の事業計画書の作成ができず、銀行融資も受けられませんでした。融資がつかなかったのは「出口=流通市場」がないことが理由です。銀行は、万一の際に物件を売却して債権を回収する確証が持てず、リスクを取れなかったのです。
この「融資の壁」は非常に大きな課題です。「この物件を買えば、将来的にこれくらいの価格で売却できる」という流通市場のデータがあれば、金融機関の対応は大きく変わります。
私たちは「民泊・旅館業の流通市場」を整備することで、投資のライフサイクルを循環させ、多くの人が安心して参入できる環境を作りたいと考え、このサイトを開発しました。
現在、私たちがサイトを立ち上げ、既に300物件以上の情報と流通データを蓄積しているため、「このエリアなら、過去にこういう売却実績があり、これくらいの反響がある」と客観的に説明できるようになりました。それによって、投資家側も判断がしやすく、銀行も融資しやすくなります。
例えば、データを整備したことによって、見えてきた数値もあります。ReINNのマーケットレポートで分析すると、エリア・許認可種別・物件種別・築年数によって利回りは最大5倍以上の開きがあります。
データベース339件(2026年6月時点)の分析では全体の平均利回りが12.3%ですが、群馬・栃木・静岡などの地方戸建ての中央値は18.9%。一方、東京都内の一棟マンションは平均6.8%にとどまります。さらに、観光需要の伸び率と利回りを掛け合わせた分析では、静岡・山梨が「高利回り×需要急増」の優先投資ゾーンに位置し、前年比+80%の観光需要増加かつ利回り21%超というデータが出ています。
こうした情報が可視化されることで、投資家は感覚ではなくデータで物件を選べるようになります。
「INNsight by ReINN」こだわりの2つの機能とは?
――サイトの主要な機能や、特にこだわった特徴的なサービスはありますか。
赤津:「マーケットレポート機能」と、誰でも相談できる「サポート窓口機能」の2つに拘りました。
「マーケットレポート」で言うと、民泊の取引事例やエリアごとの収益性データは、これまで市場にほとんど存在しませんでしたが、弊社は2年前から独自に市場データを蓄積・整理してきました。このデータをもとに、特定の物件に限らず「このエリアの、この市場環境であれば、これくらいの収益(数字)が見込める」という収益見込みや、平均的な集客ポテンシャルを算出しています。
観光客数に対する現在の民泊物件数のデータも揃っているので、ユーザーは、先行者利益を狙えるエリアなのか、それとも既に市場が形成されていて出口が安定しているエリアなのかを客観的に判断できます。
もう1つの「誰でも相談できるサポート窓口」は、先述した複雑な許認可(建築基準法や民泊新法など)の一般知識について、専門家に気軽に相談できる機能です。物件そのものの斡旋ではなく、民泊・旅館業投資の基礎知識を提供する役割を持っています。
民泊を気軽に取引できるアセットクラスに
――現在のサービスを基盤として、3年後、5年後に実現したい「新しい不動産市場のビジョン」を教えてください。
赤津:私たちの最大のミッションは、民泊を賃貸不動産のような「多くの投資家が参入・取引できる」アセットクラスにすることです。
民泊物件の健全な流通が行われるマーケットプレイスを確立し、そこに金融機関からの確固たる融資を紐づけ、優秀な運営代行会社のデータベースを整備する。オーナー様が好みの物件と信頼できる運営業者を簡単に選べるような世界観を実現したいと考えています。
それによって、現在は一部の尖ったプレイヤーだけが参入している民泊市場を、多くの一般投資家がポートフォリオの一部として当たり前に組み込めるような、成熟した市場になるまで、しっかりやり切りたいと思います。
空き家活用の取り組みを一般投資家にも
東急不動産ホールディングスグループの「ReINN(リイン)」では、民泊の参入戦略の設計から、物件購入、融資、開業、運営体制の構築、出口戦略までを統合的に支援し、あらゆる人が手軽に宿泊事業を運営できる仕組みを提供しています。

「民泊を始めたいものの、何から始めたらいいかわからない…」「既に運営をしていて、収益を改善したい…」とお悩みの方は、まずはReINNへお気軽にご相談ください。
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