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息子を自立させるための力技
修一さんには、住まいについて、もう一つ気がかりがありました。
階段の上り下りです。
自宅は2階建てで、寝室は2階。最近は膝の痛みもあり、夜中にトイレへ行く際には手すりにつかまることが増えました。
そこで検討したのが、高齢者向け住宅への住み替えでした。自宅からも比較的近い有料老人ホームは、月額費用が食費などを含めて約17万円、入居時費用は約100万円。ここであれば、年金プラスαで入居を続けることができます。家の売却益も鑑みると、金銭面では何も心配ないでしょう。
修一さんは不動産会社との話を進めました。ところが、その話を聞いた健太さんが反発します。
「家を売ったら、俺はどこに住めばいいんだよ」
「お前も仕事を探して、一人で暮らせばいい」
「俺を追い出すってことか?」
修一さんは答えました。
「追い出すんじゃない。自分の老後を考えただけだ」
それでも健太さんは納得しません。
「親父が死んだら、この家は俺のものになるんだろ。だったら、今売る必要なんかないじゃないか」
この言葉を聞いたとき、修一さんは初めて、息子との間にある認識の違いをはっきり感じたといいます。
健太さんにとっては、実家が「自分の住む場所」であるだけでなく、「将来受け取るかもしれない財産」になっていたのです。
話し合いは何度も平行線をたどりました。健太さんは「家を売るなら、自分も働く」と言いました。しかし、これまでにも同じ約束があり、修一さんは信用できませんでした。
そしてある日、修一さんは息子に告げました。
「施設、契約してきた。今度、この家にも内覧があるそうだ。近々、出ていく準備をしろ」
健太さんは黙ったそうです。52歳。これまでのキャリアを考えると、就職は無理かもしれません。ですが、バイトという立場でも真面目に働けば、一人暮らしができる程度の収入は得られるでしょう。
修一さん自身、自宅の売却益には手を付けず残しておくつもりですが、健太さんには伝えていません。少々無理やりだったかもしれませんが、今が健太さんの自立する最後のチャンスであり、失敗は許されないと考えています。
国立社会保障・人口問題研究所『第9回世帯動態調査(2024年)』によると、50〜54歳男性の未婚率は22.0%に達し、約5人に1人が未婚の状況です。
また同研究所『第16回出生動向基本調査』では、18〜34歳未婚男性の65.9%が親と同居していると報告されており、未婚のまま親と同居し続ける若・中年層の多さが浮き彫りとなっています。
社会課題とされる「8050問題」。高齢親の年金や資産に頼る無職の子が、親の死後に孤立し生活破綻するリスクが高いのが実態です。親が健在なうちに「実家売却」や「施設入所」で同居を解消することは、子の自立を促し親子共倒れを防ぐため有効な手段の一つです。