老後資金の不安から実家の売却を模索する親に対し、激怒して猛反対する子――親子共倒れを防ぎ、子の自立を促すために親が取るべき決断とは。ある親子の葛藤を通して、高齢期の住み替えと家族が直面する課題を考えます。
「勝手に家を売るなよ!」実家に居座る〈52歳・働かない息子〉が大激怒、それでも〈年金月18万円・80歳父〉の決意が揺るがないワケ ※写真はイメージです/PIXTA

実家売却…寝耳に水の同居の息子

「勝手に家を売るなよ!」

 

佐藤修一さん(仮名・80歳)が息子からそう怒鳴られたのは、近所の不動産会社に自宅の査定を依頼したことを伝えた直後でした。

 

妻を7年前に亡くしてから、修一さんは長男の健太さん(52歳・仮名)と2人で暮らしています。築45年の戸建ては、修一さん名義です。不動産会社から示された査定額は約2,800万円でした。

 

「もう、この家を手放そうと思っているんだ」

 

そう話すと、健太さんの表情が変わりました。健太さんは20代から30代にかけて会社員として働いていましたが、40代半ばで退職。その後はアルバイトを転々とし、5年ほど前からほとんど仕事をしていません。現在の収入は月2万円ほどの内職だけ。生活費のすべてを父親が負担してきました。

 

修一さんの年金は月18万円。手取りにすると16万円強。毎月の食費は約6万円、光熱費や通信費が約3万円、固定資産税や自動車関連費用などを月割りすると約3万円。さらに健太さんの生活費として月4万円ほどを渡していました。毎月の支出は年金だけで賄うことはできず、預貯金を取り崩す生活が常態化していたのです。

 

会社を辞めて年金生活をスタートさせたときには、退職金を合わせて預貯金が1,500万円近くありました。ですが、今は約620万円まで減っていました。

 

「このままだと私が生きているうちに金が尽きるかもしれない……」

 

修一さんがそう考えるようになったのは、79歳になった頃からです。

 

厚生労働省『令和7年簡易生命表の概況』によると、79歳男性の平均余命は9.69歳。あと10年と考えると、何が起きるかわかりません。不安に思うのは当然のことです。