多額の資金を投じて自宅を新調したものの、数年後に「売りたくても売れない」という不測の事態に陥る――。そこには、老後の住まい選びに潜む思いがけない落とし穴がありました。ある夫婦の事例から、不動産資産の現実と、後悔しないための備えについて考えます。
こんな家、建てなきゃよかった…72歳元会社員〈退職金2,400万円〉を投じて自宅を建て替えも「売りたいのに売れない」の真相 ※写真はイメージです/PIXTA

「この家なら高く売れる」と思っていた

長男に相談すると、「まだ家が新しいうちに売ったほうが、高く売れるんじゃない? マンションを買う資金くらいにはなるのでは」と背中を押してくれました。

 

建築費だけで3,600万円かけた家です。しかも築10年。設備も新しく、長男世帯が暮らせるようにキッチンも浴室も2つあります。

 

「これだけお金をかけたんだから、普通の家より価値があると思っていました」

 

そこで不動産会社に査定を依頼しました。返ってきた答えは、修一さんの想定とは違うものでした。

 

「二世帯住宅なので、買い手がかなり限定されます。このままでは売れないかもしれません」

 

担当者から説明されたのは、二世帯住宅特有の問題でした。二世帯住宅は、親世帯と子世帯が一緒に暮らすことを前提にした特殊な間取りです。キッチンや浴室などが複数ある場合、二世帯で暮らさない買い手にとっては、使わない設備まで抱えることになります。中古市場では、一般的なファミリー向け住宅とは購入希望者の層が異なります。さらに、建物が大きいため、駅から遠いにもかかわらず、同じ地域の一般的な戸建てより売り出し価格が高くなりやすいというのです。

 

厳しい現実を前に、修一さんは黙り込みました。家族のために用意したキッチンも、浴室も、部屋も、買い手にとっては必ずしも魅力ではない。むしろ、不要な設備として見られる可能性がある――。

 

「せっかく、息子家族のために3,600万円もかけた家なのに、そのままでは売れないかもなんて。『こんな家、建てなきゃよかった』とは思いたくないですけど、少しは思ってしまいますよね」

 

実は、こうした「売れない・貸せない」住宅は、今や二世帯住宅に限らない社会問題です。総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』によると、全国の空き家数は過去最多の900万2,000戸(空き家率13.8%)に達し、使い道のない「その他の空き家」は385万6,000戸に上ります。

 

中でも一戸建ての空き家(352万3,000戸)は、実に80.9%(285万1,000戸)がこの使い道のない状態です。さらに、これら世帯所有空き家の取得理由は「相続・贈与」が61.6%を占めます。よかれと思って建てたマイホームが、将来子どもたちの重荷として放置されるリスクが、データからも浮き彫りになっています。