多額の資金を投じて自宅を新調したものの、数年後に「売りたくても売れない」という不測の事態に陥る――。そこには、老後の住まい選びに潜む思いがけない落とし穴がありました。ある夫婦の事例から、不動産資産の現実と、後悔しないための備えについて考えます。
こんな家、建てなきゃよかった…72歳元会社員〈退職金2,400万円〉を投じて自宅を建て替えも「売りたいのに売れない」の真相 ※写真はイメージです/PIXTA

築35年の自宅…リフォームか、建て替えか

「せっかく建て替えるなら、子どもたちが帰ってきても困らない家にしたい」

 

埼玉県で暮らす佐々木修一さん(72歳・仮名)と、洋子さん(69歳・仮名)夫婦。定年後、再雇用で働いていた修一さんが会社を辞めたのは10年前のこと。当時2人が住んでいたのは築35年になる戸建てでした。

 

国土交通省『令和6年度 住宅市場動向調査』によると、注文住宅を「建て替え」で建築した世帯主の平均年齢は60.7歳で、60歳以上の世帯が全体の59.1%を占めています。

 

修一さんのように、定年退職や高齢期などの節目に今後の住まいを再検討するシニア層は少なくありません。一方、同調査における三大都市圏の平均リフォーム資金は154万円(中央値48万円)。これは小規模な修繕も含むため、外壁や水回りなど全体を一新する大規模リフォームを行う場合は、やはり数百万円規模の出費は避けられないのが実情です。

 

マイホームを建てて15年ほど経ったとき、定期的なメンテナンスの一環として屋根や外壁などを直しました。総額180万円ほど。それから20年ほど経ち、再度、屋根や外壁を直すのに200万円強かかる見込みです。さらに家の中も経年劣化がひどく、壁紙の張り替えのほか水回りなども直すと、総額400万円近いリフォームになることがわかりました。

 

「どうせなら、建て替えも考えないか」

 

その流れの中で出てきたのが、同じ市内に住む長男夫婦との同居話。建て替えるなら二世帯住宅に。そうしたら、長男夫婦は随分と助かるはず。なんなら、建て替え費用はすべて佐々木さん夫婦が出してもいい――トントン拍子で話は進み、退職金2,400万円に加えて預貯金から1,200万円を出して、二世帯住宅に建て替えることに決めたのです。

 

玄関は共用ですが、1階と2階にそれぞれキッチンと浴室を設けました。長男世帯が暮らしやすいよう、2階には3部屋を確保しました。

 

「老後のためだけなら、こんなに大きな家はいらなかったでしょう。でも、子どもが帰ってくるなら話は別です。どうせ住むなら家族が集まれる場所を作りたかった」

 

建て替えた家には、修一さん夫婦と長男夫婦、さらに2人の孫が住んでいました。基本は別々の生活であるものの、休みの日には一緒に庭でバーベキューをするなど、二世帯住宅ならではの生活を楽しみました。しかし、そんな生活に変化が生じたのが10年後。長男に転勤の辞令が出たのです。

 

勤務先は自宅から遠く、通勤は現実的ではありませんでした。長男は妻と子どもを連れて転居するしかなかったのです。

 

「また戻ってくるかもしれないから」

 

そう考えた修一さんは、二世帯住宅をそのまま維持することにします。しかし修一さんは72歳。洋子さんも69歳。戻ってくるかもしれないといっても、それは5年後か、10年後か――それまで、この広い家、広い庭を維持しなければならないと考えると、少々無理があると感じ始めたといいます。