10年、20年先の「予定外のこと」まで想像しておく

では、夫を亡くした智子さんは、これからどう生活していけばいいのでしょうか。

智子さんはパート収入に加え、遺族厚生年金と中高齢寡婦加算を受給しています。中高齢寡婦加算は、一定の条件を満たす40歳以上65歳未満の妻の遺族厚生年金に加算される制度です(※1)。65歳以降は自身の老齢基礎年金なども合わせ、公的年金は月15万円弱になる見込みです。

住宅ローンはありません。そのため、毎月の住居費を大きく抑えられることは、智子さんにとって支えになります。一方で、61歳の現在、手元にある金融資産は約700万円。自宅は残っているものの、自宅を売却しない限り、家そのものを日々の生活費に充てることはできません。

「家は残ったけれど、これから何十年も生活していくことを考えると、現金がもっとあればと思ってしまいます」

智子さんはそう話します。

年金を増やす手段の1つとして「年金の繰下げ」があります。2028年4月からは制度改正で、遺族厚生年金を受給している人でも、老齢基礎年金の繰下げが可能になります(※2)。

智子さんのように改正後に65歳を迎える人は、その時点の資産や働き方を見ながら、65歳から受け取るか、繰り下げるかを検討できます。ただし繰り下げ期間中は老齢基礎年金を受け取れないため、手元資金とのバランスが重要です。

老後のお金に「これをすれば絶対安心」という答えはありません。繰上げ返済をする、現金を残す、一部を運用する、働き続ける――。大切なのは、その時点の家計だけで判断せず、10年、20年先の「予定外のこと」まで想像しておくことです。

退職金というまとまったお金を手にしたとき、あなたなら「借金がなくなる安心」と「自由に使える現金が残る安心」、どちらをどのくらい残したいでしょうか。

【参考】
(※1)厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第13 遺族年金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_013.html

(※2)厚生厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給」
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_011.html

三原 由紀
プレ定年専門FP®