定年後、「これからは夫婦で過ごそう」と考える夫と、自分のペースで暮らしたい妻。老後資金に大きな不安がなくても、夫婦の距離が近すぎることがストレスになる場合があります。専業主婦だった63歳妻が「いまさら働く」ことを選んだ理由から、定年後の夫婦に必要な距離感と家計についてCFPの松田聡子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
「夫は悪くない。でも、もう限界」…66歳元大手勤務夫がまとわりつく“濡れ落ち葉”の老後。〈貯蓄3,000万円〉63歳妻が「いまさらパート勤務」を決意した理由【CFPの解説】
「私、働きます」…妻の決断
「さすがにいい加減にしてほしい……。どうにかしなきゃ」
美和子さんは秀信さんと適度な距離を取る方法を考え、パートに出ることにしました。長く専業主婦だった美和子さんにとっては、一大決心です。
それでも働きに出ようと考えたのには、家計の赤字という「もっともらしい理由」がありました。 現在の収入は秀信さんの月18万円の年金だけです。一方、毎月の支出は26万円程度で、貯蓄からの取り崩しが続いています。
「このまま毎月貯金を減らしていくのも嫌だし、私も少し働こうと思うの」
美和子さんがそう切り出すと、秀信さんは「3,000万円もあるんだから、別に働かなくてもいいだろう」と渋い顔をしました。しかし、美和子さんは「でも、多少なりとも取り崩しを減らせるでしょう」と押し切りました。
家計のことは、もちろん嘘ではありません。ただ、美和子さんにはもう一つ大きな理由がありました。家の外に、自分だけの時間と居場所が欲しかったのです。
美和子さんが選んだのは、自宅近くにある美術館の受付の仕事でした。週3日程度のパートで、未経験でも応募できるとありました。もともと美術館に行くのが好きだったこともあり、「せっかくなら興味のある場所で働いてみよう」と考えたのです。
仕事を始めるにあたり、美和子さんは秀信さんにこう伝えました。
「私が仕事の日のお昼は、自分で用意してね。それから、お風呂掃除と買い物の一部もお願い」
こうして、これまで美和子さんに任せきりだった家事を、秀信さんも少しずつするようになりました。美和子さんには職場で新しい人間関係が生まれ、自分の収入も得られるようになったのです。