血のつながった親子であっても、すべての価値観や言動を受け入れられるとは限りません。ときには、一度の仲たがいが長期にわたることも。それは次の世代まで尾を引き、新たな葛藤や選択を生むケースもあります。
「おじいちゃんとおばあちゃんはもう死んじゃったの」成人祝いの贈り物を受け取った18歳ひとりっ子…46歳両親と70代祖父母の〈絶縁〉を知った日 (※写真はイメージです/PIXTA)

母が抱え続けた18年間の葛藤

母は、ずっと胸に秘めていた苦しさを明かしました。

 

「本当はね、カスミがわかる年齢になったら話そうと思っていたの。でも、小学生のカスミに初めて両親のことを聞かれたとき、焦って思わず『死んじゃった』って嘘をついてしまった。ずっと嘘をついていてごめんね」

 

母にとって、この18年間は自責の念との戦いでもあったようです。カスミさんをお腹に宿したときから、「自分の一存のせいで、娘から祖父母という存在を奪ってしまっているのではないか」と悩み続けた母。さらに、「親と仲直りすらできない自分が、もし将来、娘が友達と喧嘩したときに『仲直りしなさい』なんて言えるのだろうか」と、母親としての自分に自信を持てなくなることもあったそうです。

 

母が実家と決別した背景には、結婚相手である父と、その両親(父方の祖父母)の存在もありました。実家と絶縁したあと、父やその家族と過ごすなかで、母は「それ、普通じゃないよ」「そんなこと親から言われる筋合いはないよ」と、教えてもらう機会が何度もあったといいます。

 

「彼らと接するようになって初めて、改めて自分の両親について考えたの。自分の頭の中にはなかった“普通の温かい家族”のお手本を、夫と義両親が見せてくれた。この人たちと家族になれたことは、私の人生にとっても、カスミにとっても本当に幸運なことだったと思ってる」

 

18歳になり、すべてを知ったカスミさんは、母の強さと、自分を守り抜いてくれた深い愛情を、手渡された小さなピアスとともにしっかりと受け止めていました。

絶縁した親との「その先」

理不尽な暴言や支配から身を守り、新しい家族との「普通の温かい暮らし」を守り抜くために実家と仲たがいしたカスミさんの母。18年間、娘を慈しみ育ててきた決断は決して間違いではありませんでした。

 

しかし、実親が70代を迎え高齢になっていくにつれ、「もし親が倒れたら?」「将来、病院や役所から連絡が来たらどうしよう」といった漠然とした不安がよぎるといいます。親と不仲な子どもが、将来直面するかもしれない「介護」や「相続」の現実。自分たちの穏やかな生活を守り続けるために知っておくべき備えについて考えます。

 

「役所や病院から連絡が来たら?」…扶養義務の本当の意味

親と長年連絡を断っていても、親が倒れて倒れ込んだり認知症が進んだりした際、福祉事務所や病院から「子であるあなたに援助や身元引き受けをお願いしたい」と連絡が入ることがあります。

 

このとき、多くの人が「親子の縁は切れないから、お金を出さなければいけないのか」と追い詰められた気持ちになるでしょう。しかし、民法が定める親子の扶養義務(生活扶助義務)は、「自分の生活や家族(夫やカスミさん)の暮らしを犠牲にしてまで、無理に親を養わなければならない」というものではありません。

 

特に、過去に理不尽な暴言を受け長年音信不通であるような「著しい関係破綻」が存在する場合、行政や福祉の現場において無理な金銭援助や引き取りを強制されることはありません。

 

親が亡くなったとき…相続はどう対応する?

もう一つ、いつか必ず訪れるのが「親の死」です。絶縁していても、戸籍上の親子である以上、親が亡くなった際に警察や役所から通知が届く可能性があります。ここで気をつけたいのは、「関わりたくないから」と連絡を無視して放置してしまうことです。

 

たとえば、実家や預貯金などプラスの財産がある場合、過去の苦労への清算と割り切って遺産をそのまま受け取る「単純承認」は子どもとしての正当な権利です。一方で、プラスの財産はあるものの隠れた借金があるか不透明な場合は、得た財産の範囲内で負債を清算する「限定承認」という手続きを選ぶこともできます。

 

さらに、明らかな多重債務がある場合や、親の財産や死後の手続きに1円も関わりたくない場合は、親の死を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所で「相続放棄」を行えば、一切の負債から完全に離脱できます。絶縁しているからといって放棄一択ではなく、自分と家族の状況に最も適した対応を選べばよいのです。

 

将来的に実親の老後や死という問題が浮上したとしても、それは過去の呪縛に引き戻されるためのものではありません。子ども側の視点に立って考えれば、高齢になった親自身が年齢とともに角が取れて丸くなり、かつての頑なな態度や意地が和らいでいくこともあります。親が自分の過去を振り返り、我が子や孫への思いから姿勢を変える瞬間が訪れることも、決して珍しいことではありません。

 

だからこそ、法律や手続きの知識を身につけ、いざというときのリスク管理(介護の拒否や相続の選択など)を徹底したうえで、柔軟な対応を頭の片隅に残しておくことが大切です。時間の経過とともに変化する親の姿や自分自身の心境を見極めながら、必要であれば関係性を再構築する選択肢も捨てない姿勢が、自分たちの穏やかな生活を守りつつ、後悔のない将来を迎えるための現実的なアプローチとなります。