空いた時間で手軽に稼げるとあって、スキマバイトは増加の一途をたどっています。内田弘美さん(仮名・63歳)は休みの日にスキマバイトをするようになりましたが、次第にのめり込み、大事な予定を犠牲にするようになっていきます。
「今年は1泊だけにしてくれない?」ワーカホリック気味の63歳女性、お金とトレードオフで失いかけたもの ※写真はイメージです/PIXTA

予想以上に楽しいスキマバイト。ついついワーカホリック気味に

その日のうちにスキマバイトに登録した弘美さんは、1か月でたくさんの求人に応募しました。飲食店での食器洗い、農家での野菜の収穫作業、物流倉庫でのピッキング作業……。お祭りの屋台でポテトを揚げるなど、ちょっぴりレアな経験もできました。

 

平日はパートの仕事、土日はスキマバイト――弘美さんは、気づけば娘や孫に会う時間よりもスキマバイトを優先するようになっていきました。

 

孫の誕生日には予定を空けますが、クリスマスや年末年始は「ごめんね。この時期はどこも人手が足りないみたいで……」と莉子さん家族の誘いを断ってしまいます。莉子さんは、ため息をつきながらも「……わかった」と理解を示してくれました。

 

決定的な出来事が起こったのは、お盆まで1週間を切ったある日のことです。

 

莉子さんから、「今年もお母さんの家に泊まりに行くけど、いいよね?」と連絡がありました。莉子さん家族は、お盆になると毎年弘美さんの家に2泊3日で泊まりに来るのが恒例となっていました。しかし、今年はお盆の期間に何日かスキマバイトを入れてしまったのです。

 

「いいんだけど、今年は2泊3日じゃなくて1泊2日にできないかな? 3日目に仕事を入れちゃってね」
 

「……は?」

 

莉子さんの低い声が、携帯を通して静かに響きます。

 

「じゃあもういいわ、今年からお盆は帰らないから」

 

そう言って電話を切られてしまいました。その後、弘美さんがメッセージアプリで連絡をしてもなかなか既読になりません。結局、お盆に莉子さん家族が泊まりに来ることはありませんでした。

 

家族が集まる時間は最優先。スキマバイトは「スキマ時間」に

その後、弘美さんはいつも誕生日ケーキを注文するお店でケーキを買い、莉子さん宅を訪問。「せっかく楽しみにしてくれてたのに、本当にごめんね」と心を尽くして謝りました。最初は冷たく接していた莉子さんでしたが、孫たちがおいしそうにケーキを食べる姿を見て、少しずつ普段どおりに話してくれるようになりました。

 

 

パーソル総合研究所『スキマバイト/スポットワークに関する定量調査(2025年)』によると、直近でスキマバイトを行った理由の1位は「隙間の時間を埋めたかった(42.5%)」から。2位が「娯楽費を稼ぐため(39.0%)」「仕事内容が難しくなさそう(38.2%)」「自由な時間で何かをしたかった(36.4%)」と続いています。この調査からは、自由時間を使って無理なくスキマバイトに取り組んでいる人が多いことがわかります。

 

パーソル総合研究所『スキマバイト/スポットワークに関する定量調査(2025年)』
パーソル総合研究所『スキマバイト/スポットワークに関する定量調査(2025年)』「直近のスキマバイト・レギュラーバイトを行った理由[上位4項目まで選択回答/%]」

 

 

「スキマバイトはあくまでもスキマ時間にやるもの。それを忘れないようにしなくっちゃ」


莉子さん家族の笑顔を見ながら、弘美さんは心の中で言い聞かせました。