(※写真はイメージです/PIXTA)
年に1度の帰省…「電話では元気そうだったのに」
都内の企業に勤めるゴウさん(仮名/44歳)は、共働きの妻と3人の子ども(中学生、小学生2人)の5人家族です。妻の実家は同じ関東圏にあるため年に数回顔を出すことができますが、ゴウさんの実家は新幹線を乗り継がなければならない遠方にあります。仕事や子どもの学校・習い事の都合もあり、自分の実家へ帰省できるのは年に1回、お盆の時期だけになっていました。
ゴウさんの父親と母親は2人とも今年で73歳。普段、電話で近況を報告し合う限りでは、「元気でやっているよ」と聞いており、声にも張りがあるため、ゴウさんも「健康に暮らしてくれていてなによりだ」と実家になかなか帰省できない後ろめたさはありつつも、安心していました。
しかし、今年のお盆。1年ぶりに家族5人で新幹線に乗り、大荷物を抱えて実家の玄関を開けたゴウさんは、すぐにその安心が自分の思い込みに過ぎなかったと気づかされます。
張り切りすぎた母の「もてなし」の限界
実家のリビングには、子どもたちが好きな唐揚げやハンバーグ、お刺身、スイカなど、テーブルに乗り切らないほどのごちそうが並べられ、2階の客間には家族5人分の布団が綺麗に敷き詰められていました。両親が何日も前から大掃除をし、買い出しに行き、この日のためにものすごく準備をしてくれていたことは一目でわかりました。
しかし、もてなしてくれる母親の姿を見たゴウさんは胸を痛めます。
1年前には見られなかったのですが、母親の物忘れが目立つように感じました。夏場に刺身を台所の端に出しっぱなしにしており、衛生面も心配です。また、料理を運ぶ手も小刻みに震えています。少し動くだけで息が上がりやすくなっており、食後に客間の布団を直そうとする姿もひどく辛そうでした。見かねたゴウさんや妻が「自分でやるから」と申し出ても、母親は「せっかく帰ってきたんだから、ゆっくりしなさい。これくらい大丈夫だから」と頑なに断ってきます。
ゴウさんたちのために完璧なおもてなしをしたいという親心は痛いほど伝わってきましたが、その裏にある明らかな肉体の衰えに、ゴウさんはいいようのない不安を覚えました。
買い出しの車内で背筋が凍った父の「運転」
夕食の準備中、買い忘れた食材があることに気づいた母親。父親が「車でスーパーまでちょっと行ってくる」と言います。「俺も行くよ」と同乗したゴウさんでしたが、助手席に座ってから数分後、一緒に乗ってよかったと思いました。父親の運転は、明らかに危うくなっていたのです。
交差点での安全確認が遅く、対向車が来ているのに無理に右折しようとしたり、車線変更でウインカーを出し忘れたりと、ヒヤリとする場面が立て続けに起きました。ブレーキのタイミングも遅く、ゴウさんは助手席で何度も想像上のブレーキを踏み込み、冷や汗をかきました。
「おやじ、ちょっと運転危ないよ。そろそろ免許返納したほうがいいんじゃないか?」
スーパーの駐車場に着いた際、ゴウさんは思い切って打診してみました。父親は「ちょっと疲れていただけだ。まだまだ大丈夫だ」と笑ってごまかしましたが、その強がりが逆にゴウさんの不安を増幅させました。
普段の電話では決して見えなかった「親の老い」。1年に1回しか帰らないからこそ、そのギャップはより鮮明に、残酷なほどくっきりと浮かび上がったのです。