(※写真はイメージです/PIXTA)
老人ホームで、覇気を失っていく母
サクラコさん(仮名/49歳)の母(76歳)は、足の骨折を機に、自ら決断して高齢者施設に入居しました。月額15万円の介護付き有料老人ホームです。母の公的年金は月12万円であるため、足りない分は、父が遺した生命保険金と実家の売却益とそれまでの貯蓄を取り崩して入居費用を賄っています。
入居前の説明で、施設側からは「安全に外出ができるかを確認でき次第、お一人での外出も自由です」といわれていました。しかし、骨折が治り、入居から5ヵ月が経ったいまもその確認は行われないまま、実質的に一人で外へ出ることはできない状態が続いています。
施設内でも体操などの運動が行われているようですが、屋外をのびのびと散歩する機会がないせいか、近ごろの母は明らかに日常の動作が遅くなり、どこか表情の覇気も失われているように感じられました。
「施設の方もお忙しいですし、人員や時間の都合で難しい面があるのもわかります。ですが、入居前より元気がなくなった母が可哀そうで……」
食事に不満をこぼす母…好物すら届かなかった日
特に母が寂しそうにするのが「食事」についてです。
「毎日同じようなご飯なのよ」「ご飯が冷めていてね……」「たまには大好きなもずくを足して食べたいな」
面会のたびにボソッとこぼす母。サクラコさんが施設の献立表を確認する限り、メニューは日替わりで工夫されており、決して不十分な内容ではありません。しかし、集団生活のなかで「ご飯を温かいまま食べる」「個人の好きな小鉢を足す」といった細かな希望を叶えるのは難しいのが現実です。
もともと、母は控えめな性格。「しょうがない」と諦めている様子を見かねたサクラコさんは入居から初めての夏の暑い日、母を少しでも喜ばせようと、大好物の「アイスクリーム」を買って面会に訪れました。
ところが、施設側から返ってきたのは予想外の言葉だったのです。
「お気持ちは申し訳ないのですが、お母様は施設でしっかりカロリー計算をして食事管理をしていますので、食べ物の差し入れはお受けできません」
ルールや健康管理のためとは理解しつつも、食べたがっていたアイスクリームすら届けてあげられず、サクラコさんは母に対してたまらない気持ちになりました。
母を施設に残し、老人ホームの建物を背にして帰る道すがら、サクラコさんの頭には悲しげな母の顔と強いモヤモヤが離れませんでした。
「母はここで本当に楽しめているのだろうか。それとも、この居心地の悪さは『親を施設に入れた』という私自身の後ろめたさから来ているのだろうか――」